シリーズ10巻。ようやく読み終わった。ちょっと大変。
警察小説。スウェーデン警察の警部(?)マルティン・ベックが主人公。
事件発生→解決という流れも一応あるんだけど、それより「警察という職業」
「刑事として生きる男たちの哀歓」がメインの内容だ。
といっても、筆者のねらいとしては、「10年にわたるスウェーデン社会の変遷を、
主人公の生活や事件を通して描き上げてみたい」(あとがきより)ということらしいから、
段々「スウェーデン社会を描くこと」の方に比重が移っていく。
5巻くらいから、事件やキャラクターの生活・心情より、社会状況の部分に筆が多く割かれるようになる。
正直、そうなってからの5冊はちょっと退屈。
スウェーデンについて書かれた本というのも少ないし、この本を読んでスウェーデンの
イメージがだいぶ変わり、そういった意味では有益な本だったけれど、
警察小説(=広い意味でのミステリ)=エンタメを期待して読むと、話が地味すぎてなあ……。
トーンがどうしても暗いし。明るきゃいいというものでもないが、もう少しなんというか、
……読者にサービスしてもいいような。
でも「うーん」と首をひねりつつ、10巻読んだということは、それなりの魅力もあったから。
キャラクターはいい。おっさんばっかり……でも、このおっさんたちがなかなかに個性的。
主に能力を通して描き分けられているので、大袈裟に言えば、戦隊物かなんかに似た、
集団としての面白さがある。主人公のベックは能力的には「高い」というだけで
あまり面白みはないのだが、グンヴァルド・ラーソンは巨漢で肉弾戦に強く、
メランデルは神のごとき記憶力、コルベリはバランスと洞察力、などという能力が付与されている。
それに対して若造どもは未熟者として描かれる。あまり魅力的じゃない。
でも彼らのお蔭で、話がちょこっと派手になったりもする。
各自の能力と性格の組み合わせがいいのだな。
ベックには(やはり)面白みがないが、内省的で誠実なので好感が持てるし(ちょっと不自然にモテすぎ?)、
メランデルは「席にいない時はいつもトイレにいる」というユーモラスな特徴があるし、
コルベリはベックの親友でいい奴、それになんといってもグンヴァルドが!秀逸。
「巨漢で武闘派で、性格は怪獣並み、常に周囲に波風を立てているが、生まれ育ちが良く、おしゃれ」
この設定にしたのは面白い。
……こんな人がいてもなお、全体のトーンは地味なのだが。
それと、やはり普段知ることのないスウェーデンの話だということも、読み続けた理由だろうと思う。
北欧について、わたしはほんとに知ることが少ない。北欧4国の区別もついていないし、
浮かんで来るのは「白夜、森、高福祉社会、きれいな英語、デザイン」……この程度だ。
でもこのシリーズを読んでいると、明るく成熟した福祉国家というイメージは全くなくなる。
先行きの暗い、迷走を続ける小国。問題が山積し、警察官としては苦労も多い。
正直、こんなに暗い国なのかなあ?と疑問。この作品は、1970年前後10年を舞台にしているから、
今のスウェーデンとは違っているのかもしれないけど。
最終巻の「テロリスト」にだけ言及すれば、最後だけに、少し話が派手になって終わったという感じかな。
アメリカの上院議員が訪問、その時に起こる大規模テロを防ぐ、という話。
一応、タイムリミット物としてのハラハラ感もあるし、ちょっとしたどんでん返し?もある。
たまにやる人がいるけど、この作者もサービス精神のある人なのか、以前の登場人物が集合してて愉しい。
ただ、テロリストが日本人なんだよなあ。これには「何で?」と思ったけど。
自分の認識からすると、日本人とテロってすごく離れたところにある気がしているので。
でも、もしかして当時は連合赤軍とかの時代か?
彼らはたしか国外脱出して、色々テロ活動に従事してたりしたんだよね?(この辺よくわからん)
日本人についての言及は、総じてマイナスのイメージ……ちょっとがっかりするが、よく考えてみれば
このシリーズで掛け値なしに良いイメージで語られている存在はそれほどないのであった。
面白いかどうか、という観点からいうと、あまり他人に薦められないのだが……
妙に後を引く本ではある。「地味」を覚悟してどうぞ。
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