面白かった。面白かったが、作りが納得出来ない。
まあ状況を考えると無理ないかなーとは思う。
多分本作は著者にとって2作目なのよ。
そして1作目のキャラクターをそのまま使っている。要はシリーズ化したわけですよね。
でも、デビュー作をそのままシリーズ化するのは若干の問題がある。
何が問題かというと、単発物向けの設定とシリーズ物の設定の違いですよね。
単発物の場合、特殊な設定を中心に作るのはある程度構わない。話が強くなるからね。
このシリーズの1作目であれば、たとえば主人公が学生時代に
同性の友人と恋愛関係だったこととか、
同じころ、20歳くらい年上の異性の教師(?)に片思いされていた設定とかですね。
だがここらへん、関係性がわりとドロドロしてるのよ。
1作目は元彼が主人公に数十年ぶりに唐突に連絡を取るところから始まる。
脅迫されていると言って助けを求め、犯人を見つけてくれと依頼する。
でも元彼は主人公を(探偵として)いいように使うだけで本人は何もしないの。
これは単発向きの設定ですよ。
主人公は主人公で、年上の元教師の家に泊めてもらい、探偵活動に従事する。
まるで親戚のおばさんみたいに扱う。甘えすぎてる。
その上、別の女の人といい仲になっちゃうしね。
なんかけっこうやーな感じの功利的な主要キャラクター。
作者は別に功利的とか、打算的に描こうとしたわけではないと思うんだ。
だがそういう感情のもつれがあると、コージー系のシリーズの主人公としては
ちょっと重いよねえ。
ヒロインは特に不満はなく、普通に魅力的なんだけど、主人公のウジウジぶりとか、
元教師の好意にあぐらをかいているところとか、やーな感じ。
2作目はそれでもリセットしようとしているんだろうね。
元彼は別の教会に赴任して(元彼は卒業後、牧師になった)全然姿を見せず噂だけ。
元教師はちらっと出て来て、前作の登場人物と再婚することになる。
これが幸せそうに描けていたらリセット成功といってもいいんだが、
全然幸せそうに見えない。
やーな感じのところを丸く納められればあとは主人公のウジウジしたところだけだから
まあいいんだけど、丸く納められなかったからなー。
こういう部分、やはり筆力の足りなさだと思う。
デビュー作をシリーズ化するのは止めた方がいい。
とはいえ、全体的にはまあ面白く読んだからね。
コージーとサスペンスとミステリを混ぜられてると思うし。
本格ミステリっぽさはあまりないわけだが。まあコージーの価値はそこにはない。
わたしは教会建築とかイギリスが好きだから、イギリスの教会を舞台にした
本作は読んでて愉しい。
が、実は少しい内容が難しいと感じる部分はあった。
イギリス国内の宗教事情は我々日本人にはなじみがない。
英国国教会がほとんどカトリックそのままの新教、というのはいいとして。
高教会もいいとして。でも福音主義とかアングロカトリックとか巡礼大会とかになると。
ちょっとわからないんだよなあ。
一番わからないのは、なぜ全然主義の違う牧師がその教会に配属されるのか、
という点だ。
日本でいえば、曹洞宗のお寺の住職に真言宗の僧侶が任命されるようなもんでしょ?
「神父さん」「私は牧師だ!」……ここから齟齬が起きてるんじゃ、
うまく教会の運営が出来るわけはないのではないか。
このへんは話の肝なので、この辺がすっきりしないとあまり落ち着いて読めないよね。
まあこれは翻訳だから仕方ない。そもそも極東の島国の人にまでわかるように
書かなきゃならないとしたら、煩雑で仕方ないでしょう。
ただこのキャラクターでシリーズが続くとしたら、教会からは離れられない話に
なるはずだから、そこが日本でのネックですね。
翻訳2作目の段階で既刊が5冊だったのに、2001年の3作目を最後に翻訳が
出てないのはその辺が原因かなー。まああと1作。楽しみに読みます。
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