これは「みっちり」した本。
本を読んだ後に感想が書きたくなる本というのは、良くも悪くも「物を思わせた本」ということだ。
どこが好きなんだろう?あるいはどこが嫌いだったんだろう?と自問自答したくなる本。
そうでなければ、書かれた内容のある部分について語りたいことがある本。
そういう意味では、この本は感想を書くにはちょっと微妙なものがある。
というのは、読んでいる間、あまり物を考えなかったので。
いや、面白くなかったのではない。なかなか面白かった。
すらすら読めて特に不満もない。エンタメ小説として、それは大事なことだと思いますね。
ではなぜ感想を書いているかというと……他に感想を書いてあるブログがなかった、という理由。
星の数ほどある書評ブログでほとんど取り上げられない、というのがちょっと不思議。
出来はいいのに。真面目に書いている良作だと思う。
架空世界を舞台にした、主人公である軍人の一代記。一言で言えばそういう話。
わたしがこれを読もうと思ったのは、とあるサイトで「異世界冒険小説の傑作です」という
書評家の言葉を読んだからなのだが、読後「その言い方は違う」と思った。
主人公は冒険をしているわけではないんですよ。職業が軍人で、彼の行動は波瀾に満ちているけれど、
概ね軍人としての責務に添った行動。(後半逸脱ぎみではあるが。)
それを冒険小説と呼ぶのは違うだろうと思う。
架空戦記と呼んでいた文章もどこかで見たが、それもちょっとイメージに合わない。
戦記と呼ぶには戦闘そのもののシーンがあまりないので。やはり軍人の一代記でしょう。
作者もそう書いていることだし。
わたしは本を読んであらすじをまとめるのが嫌いでね。下手だし。
書いてて楽しくないので、そこは省略する。
前半の4分の1くらいは「冒険小説」に引きずられて、多少違和感を持ちながら読んでいた。
ちょっと落ち着き悪い。わりと頻繁に場面転換があるし、登場人物は多めだし。
100ページ過ぎくらいかな。ようやく書きたいことが書けて来た感じで、話に入ることが出来た。
主人公のアマヨク・テミズの性格が、「ありそう」と「なさそう」の境界線上に位置している。
非常に四角四面な男。原理原則に従って行動する。正規軍の正義を「そうあるべきだから」
信じていて、現状を理想に近づけていくよう真っ直ぐに努力をする。
こう書くと単細胞な人間のイメージになるだろうが、……えーと、器の大きな単細胞というか、
ま、なかなか味のある男です。
かなり大きな話なので、「大きな話好き」には向くと思う。国内の政治状況とか、真面目に書いているしね。
(ただしそう詳しいわけではない)
キャラクターがどうこう、というよりその辺を書きたかったんだろうな。傾向としては歴史小説に近いかも。
微妙にラノベ向きの話ではあるのだが、これをラノベとして書かなかったことに、
価値をおきたい。まあその方が売れただろうが。
ただ、装丁がなあ……。これで損をしている。
イメージがかなり限定されてしまう。表紙で選んだ人は違和感を持ちそうな内容だ。
タイトルもそうだけど、もっとアドベンチャー!な感じの話に、どうしたって見えるじゃないですか。
こういう話を好む人は、この表紙には手を出さないような気がする。
装丁って大事ですね。
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