これは、「うらやましい」本。
いや、特別な感想を持つ本ではなかったんだけど……
なんでわざわざ書いているかというと、どうしてもいいたいことが一つあって。
くそー、池澤夏樹、うらやましいぜ。
道楽で旅!しかも13回も。しかも大英博物館を起点にして。
どれだけ道楽もんなんだい。ちっ、いいなあ。
パレオマニア(古代妄想狂)なんて、言葉で遊んでる呑気さが憎らしいぞ。
大英博物館には、わたしも行ったことがある。
初めて行った時には、もうドキドキのワクワク。ロンドンの第一歩が大英博物館だったし
(観光地として、という意味で)、長い間、アコガレの場所でしたからね。
大英博物館!そもそも名前がいいじゃないですか。世界の全てを手中に収めていそうな
高慢さと余裕が漂う。とはいっても、「大」がついているのは単に和訳の段階でそうなっただけで、
英語では「ブリティッシュ・ミュージアム」……これは意識して発音すると、弾んでいるような抑揚になる。
和訳名、英語名、どちらも好きだ。まあ、あばたもえくぼ状態だが。
池澤夏樹の旅の目的地は13箇所、――どう選んでもだいたいこうなるだろうな、という場所。
ギリシャ、エジプト、インド、イラン、カナダ、イギリス、カンボディア、ヴェトナム、イラク、
トルコ、韓国、メキシコ、オーストラリア。
古代妄想狂としては、カナダ、韓国、オーストラリアが多少意外。
どうも「古代」と言った時に、カナダやオーストラリアは全く視野に入らなくなる。
入れるべきであろうとは思うのだけれど。
あ、でも中国がないのは意外。それなりの展示品があるはずなのに。
わたしだったら。13は選べないが……
エジプト――ラムセス2世像、池に遊ぶ鳥と魚の絵
ギリシャ――エルギンマーブル(とは言わない方向にあると池澤が書いている)
メソポタミア(中近東辺りの区別がつかない)――アッシリアの人面雄牛像、レリーフ
ケルト(イギリスにもアイルランドにも)――サトン・フーのヘルメット
メキシコ――テスカポリトカの仮面
パルミラ――レリーフ
あたりになるかな。物に触発されて出かけるとしたら。
旅行記を書く場合の要素はおおよそ以下の四つ。多分。
起こったことを書く(体験)
調べたことを書く(知識の周知)
考えたことを書く(著者固有の思考)
感じたことを書く(著者固有の感性)
彼の旅行記はこの四つのバランスがいい。そこはかとなく勉強になって、そこはかとなく詩的。
ただ、この本では後半、少々「感じたこと」が不足気味だったような気がしないでもなかった。
実は「感じる」ことが一番難しいのではないかと思う。前三者は努力して出来る部分があるけれども、
「感じる」は完全に能動的なもの、とは言えませんからねえ。
努力して感受性を磨いて、あとは訪れを待つことしか出来ない。アンテナを出来るだけ高性能にして。
体力が落ちていると、アンテナ能力も下がるから、感受性のためには体力も必要。
特に旅においてはそうです。疲れると何も見えない、感じない、という状態になる。
なので、疲れている時に美術館、博物館に行ってはいけませんよ。
ただ入場料を払っただけになる。
池澤夏樹は、物を見る目に優しみがある。情緒的な部分と、思考的な部分の割合が好き。
この本は2005年の桑原武夫学芸賞受賞作品だそうだ。
といって、桑原武夫が何者か知らないが。賞=面白い本だというわけではないし。
でも何か、そういう地味な賞(芥川賞や直木賞と違って、客寄せのにおいがしないから)を
もらったことが他人事ながらちょっと嬉しい、友人づきあいが出来そうな、そんな本。
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