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◇ ワシントン・アーヴィング「スコットランドの吟遊詩人を訪ねて」

装丁がだいぶ素人っぽい。読んだら訳も素人っぽい。
うーん、と思いつつ読んだが、内容は良かったですよ。
良い人が描写した良い人の話で。

アーヴィングがスコットランドにあるウォルター・スコットの屋敷を訪ねた訪問記。
知り合いだったわけではなく、文学者であるアーヴィングが共通の知人に
紹介状を書いてもらって、門前で朝早く「今日遊びに行ってもいいですか?」
と手紙を書いたら、そのまま家に招き入れられて4日も泊めてもらって
丁寧にもてなしてもらうというずうずうしさ。
……まあ今とは感覚が違うんでしょう。スコットはぎりぎり貴族、という家柄だし、
生活にも余裕があっただろう。文学者同士ですしね。

アボッツフォードというのが邸宅の名前。
そこで暮らすウォルター・スコットの日常。
どんな風にして自分をもてなしてくれたか。
4日間滞在してどんな人に会ったか。
周囲の風景の美しさ。

まさに「ダウントン・アビー」の文章版という感じで、
読んでいてとても居心地が良かった。スコットもいい人だったようですね。

しかしウォルター・スコットをウォルター・ローリーと間違う……
ウォルター・ローリーだとエリザベス1世の時代の人で、水たまりにマントを
敷いた人ですね。ウォルター・スコットだと――わたし作品読んだことなかったわ。
詩人だったんですね。小説も書いたんですね。
「ケニルワースの城」とかタイトル的にちょっと惹かれるなあ。

この訳、素人くさいなあと思っていたんだけど、
詩の部分はその質朴さがいい味出していたと思う。
語る人と語られる人の実直さを感じたという意味でも
これは訳がいいと考えるべきなのか?

そして!ワシントン・アーヴィングって誰だっけ、とずーっと思ってて、
最後の解説を読んでやっとわかった。
ああ!「アルハンブラ物語」のアーヴィングか!あれ好きだったよ!

うーん、なるほどねえ。
「古き良きもの」が好きだった人なんだねえ。
だからアルハンブラ物語もいい味を出していたし、
この本で描かれたスコットランドと荘園領主的な佇まいのスコットも
魅力的に書かれている。

多分アメリカに生まれたことを残念に思うタイプだっただろう。
もっと歴史ある土地に生まれたかったに違いない。
わたしが昔、京都や奈良に近いところに生まれたかったと思ったように。

あれとこれとが繋がり、線になって少々理解が進んだ。
この人の代表作である「スケッチ・ブック」も次に読んでみる。
そんなに翻訳はされてないようなんだけどね。
「アルハンブラ物語」があるだけで十分だと感じる。

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