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◇ サラ・コードウェル「かくてアドニスは殺された」

ひさびさにコージー・ミステリの面白いヤツ。
不満は少々あれども楽しく読んだ。古さは感じるが。
特にハヤカワポケットミステリの装丁だと。イギリス本国では1981年刊行。

作者はこのシリーズを4作書いて、他に他作家とのアンソロジーにちょっと書いて、
それで著作は終わりのようだね。
弁護士資格を持ち、企業の法曹部門で働きながらの作家生活だったようだから
作品数が少なかったのは仕方ない。60歳で亡くなった。
リタイア後に本格的に書く可能性もあったのに。

この話は、ミステリにしてはわりと珍しい形式で書かれている。

イギリスの弁護士事務所に勤務している世にもドジで間抜けな女性が
イタリアに1人で休暇旅行に行って、そこで殺人犯の容疑を受ける。
その事件(というか旅行の全部の詳細)をイギリスにいる同僚たちに
毎日事細かに手紙で知らせて寄越し、イギリスにいる仲のいい同僚たちが
それを基に推理を展開する……という、とてもまどろっこしい状況。

刊行年は1981年だから、当時はe-mailなんて少なくとも一般人レベルでは
存在しなかっただろうし、人々は手紙を今よりたくさん書いただろうが、
こんな長文の手紙を毎日書いていたら、肝心の旅行をする時間が
ないんじゃないかと思いますね。

ただその隔靴掻痒感がゆとりと余裕を生み、コージーをよりコージーにしている
とはいえる。
殺人容疑をかけられた女性は「角のパン屋に使いに出すのも心配な」と描写され、
手紙の文面もユーモラスで、それを助けようとする同僚も
焦ってもいるし奮闘もしているけれどもユーモラス。
好きだね。この雰囲気。

唯一不満なのは、語り手であるヒラリー・テイマー教授のキャラが
他に描写される面々に比べて立ってないこと。
この人が探偵役なので、魅力的でないのは残念だ。他の人はまあまあなのだが。

それから不満なのが、謎解きの部分にちょっと無理がある。
ネタバレは避けるが、特に地図の部分が。
根本はけっこう「ええっ!」という大どんでん返しではあるので、
まあ楽しかったんだけどね。

でも不満より面白さの方が勝っていたので、次の巻も楽しみに読む。
4作で終わってしまうのは残念だ。

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