努力して読んだ。
島尾敏雄の名前は人生の中で何度か聞いていて、
いつかは読むんだろうと思っていた。
先日、ようやく何だかって作品を初めて読んでみたところ、
……精神を病んだ妻の付き添いで精神病院で暮らす、精神的に不安定な作家。
という不安に満ちた私小説だったので、そうそうにギブアップ。
こんなのを読んでいたら不安が伝染して辛い。
ようやく読むことになった島尾敏雄を最初の数十ページで中止したことに
申し訳なさを感じていて。
こういう作風ではわたしは読めないと思ったものの、
それでもまあ紀行文ならなんとかなるだろうと思い、本作だけは読むことにした。
――が、しょっぱなから旅に出るのに置いてきた妻と子の話が出て来て、
本人の不安が一挙に身に迫る。これもこんなんかー、読めんわー、と思ったら、
妻子が出て来たのはその最初だけで何とか助かった。不安を書いた話は読めん。
しかし案に相違して、時間かかったですよ……。
単行本550ページでボリューム自体も確かにあるんだけど、
不思議なほど読むスピードが上がらなくて。
結局読み終わるまでにほぼ1ヶ月かかった。
読みにくい文章でもなく、難しいことを書いているわけでもない本としては破格。
モスクワ――ワルシャワ――クラクフ――プラハ――ブダペスト――
ベオグラード――ウィーン――モスクワという基本的な日程に、
小さな町や村を加えた1ヶ月と少しの大旅行。
島尾自身は異国において心細げで頼りない人物。その心細さがこの紀行文の主旋律。
でも各場所にちゃんとお世話係がいて、
そこまで心細い思いをする場面はないんだけどね。
1975年に3年分くらいの雑誌掲載量を1冊にまとめて刊行したんだから、
旅行自体は1970年前後だろう。
その頃、しかもソ連・東欧を自由に旅行するのは無理っぽい。
著者はこの2年前にもモスクワを旅行したらしい。
そこで知り合った日本語学生たちやモスクワ在住の日本人や、旧知の人々との
交流が面白かったかな。
細部をデリケートに観察してて、人間の感情を事細かに書き記す。
面白くはあったんだけど、長かったのがつらかった。
内容の感想というよりは、とにかく読み上げて義理が果たせて良かった。
イザベラ・バードの続きは不可能なので、同じ「紀行」繋がりで、
たまたま最近読んだこれで許してください(笑)。Merci.
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