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◇ 佐藤亜紀「吸血鬼」

佐藤亜紀はやっぱり上手いよ。ベストセラーになることは絶対ないとは思うけど。

舞台はポーランドの寒村。
貧困と因習が運命のようにまとわりつく暗い土地。
新任の役人が美しい若妻をつれて赴任してくる。
その土地の傲慢な領主は元詩人、今は自分の屋敷に籠って暮らしている。
村人たちの原因不明の死、そこから生まれる村の動揺、
動揺を鎮めるために役人は一体どんな手段を取るのか。

……というところから始まる話。
明晰な小説ですな。頭がいい。
資料も相当読んでいるだろうけど、全体的な雰囲気は架空の土地でもいいくらい、
ファンタジーでもいいくらいの世界。

でも内容は地に足がついており――この人、ファンタジーノベル大賞出身だから、
わたしはそのイメージが抜けないんだけど、こないだ読んだ「金の仔牛」同様、
ファンタジー色が薄くなってきているね。
でも完全に歴史物にしないのも佐藤亜紀の特徴。うっすらとファンタジーをまとう。

読みながら疑問を感じる小説も多いなか、佐藤亜紀の小説は
ただシンプルに読み進んでいってほぼ不満はないね。
ちゃんと目的地に連れて行ってくれる。
若い頃の作風とは変わったかもなー。前は悪そーな雰囲気があった気がするが。
この着実さが円熟ということなのかも。

あー、新潟弁だなーと思っていた。
この人新潟出身だもんね。わたしは宮尾登美子の「蔵」でけっこう新潟弁を
読んだが、本作の方が方言はきつかった。
が、それが異世界感を醸し出す。余所者の孤独と混乱を読者にも与える。

まあこういう作風だから寡作なのはしょうがない。
今後も大いに期待することにする。がんばれ、佐藤亜紀。

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