これは……破壊的にパワフルな本。相変わらずである。
目下出版されている池上作品は、これで全部読んだことになるのかな。
そっちの感慨の方が深くて、この本そのものに対する感想は少ししか浮かばないわ。
やはり「レキオス」直後だったというのも大きいだろう。
解説で「レキオスはシャングリ・ラの原型」と言われている通り、この二作品は非常に近い。
舞台が違うこと、また主題も、片や沖縄の基地問題、片や地球の温暖化なので
違うと言えば違うのだが、作りやキャラクターはかなり被っている。
名前が違うだけだ、と感じるキャラクターも多い。
となると、大元の感想としてはレキオスとだいたい同じになってしまうんですね。
と言っても、だからといって飽きてしまうかというとそんなことはない。
舞台が近未来であり、より箍が外れたせいか、設定がますます暴走していて
(これは一応いい意味での暴走なんだけど、こういう部分で受け付けない人はいるだろうなあ。)
ナンデモアリ度は最大値を示している。破壊的。パワフル。極彩色。
たしかにあまりにも暴走しすぎて、わたしも白けた一部分はあるんだけれども。
島攻撃の擬態戦のところとかね。そこまで視覚に頼ってないやろ、とか。
擬態材やグラファイト、炭素経済、上手く使えば魅力的な概念だけど、
成功している部分が半分、失敗している部分が半分、程度に感じた。
やはりね。実際にないものを作って、それをあまり都合よく使われてもね。
しかし面白い部分はすごく面白い。
メデューサの経済活動の迫力はすごかったなあ。はっきり言って
わたしは政治・経済にはまるで疎くて、メデューサがやっていることが具体的に
どういうことなのかわからないけれど、全世界を駆け巡るあの躍動感はすごい。
よく書く。まさに東京株式市場の戦場の雰囲気そのまま。
オーバー過ぎる成功で、そこもある面やりすぎではあるんだが。
しかしわたしはここではリアリティよりもパワーを取る。
今回は沖縄の内面世界の替わりに、日本神話がモチーフになっていた。
かなりうまく使っていたと思うけれども、でもいつもの「オキナワ」ほどは血肉になっていないな。
今から考えると、美邦が何の必然性もなく平安時代をしているのが笑える。
それについては何の説明もないし。でも読んでる間は別に気にならないのだ。
この辺が筆力。
こういう話を読むと、結局筆力には頭を垂れるしかないのかと思うね。笑うしかない。
憑依系の怖さだ。どれだけ荒唐無稽な話を書いても、それで通ってしまう。
まともに話の設計図を引いている真面目な作家が、ある意味カワイソウになってくる……。
理性の敵ですよ、池上永一。
しかしなー。彼はこれからどこへ行けるんだろう。
「シャングリ・ラ」でここまでやった。この方向でさらに、というのはなかなか厳しいと思う。
かといって、今更「風車祭」に戻れるか?
オキナワというのは彼の大きな武器だったはずだ。今回それを手放し、それでも成功した。
でもそれは今後の成功を約束し続けるものではないからなー。
もちろんオキナワに戻ることも可能ではあるが……。しかし早晩、行き詰まってしまうのではないかね。
正直に言うと「風車祭」と「あたしのマブイ見ませんでしたか」は近い。
どちらも心地良く読んだが、さらに3作、4作となるとマンネリを感じるだろう。
マンネリでやっていけるのは時代小説とライトノベルと内田康夫くらいのもので、
普通、人間は一つところには留まっていられないものです。
さて、どうするのか。次の作品で問われる。
いやー、それにしても、池上永一はいい順番で読んだなー。
最初が「風車祭」だった。その後、まるで知らなかったが、このグループを順番に読んでいった。
それから「ぼくのキャノン」を読んだ。この作品は今のところ、ターニングポイントだと思うので、
風車祭グループの後、シャングリ・ラグループの前、という丁度良いタイミングで読めて良かった。
そして「レキオス」「シャングリ・ラ」。この二つの間が時間的に短すぎたのは
少々マイナスに働いたと思うが、仕方がない。順番はこれがベストだったろう。
初池上作品として「シャングリ・ラ」を読んでたら、きっと放り投げて終わっているんじゃないかなあ。
あまりにも異質で。
こういうのもめぐり合わせですからね。本の神さまが配慮してくれたに違いない。
久々に作家全作品をつぶすような読み方をして、大変充足感を感じている。
これで心置きなく次作品を待てる。池上永一、お手並み拝見といきましょう。
角川書店 (2005/09/23)
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コメント
Unknown
いつぞやのどるしねあです、こんにちわ。
読まれましたか!
ホントに彼の筆力はすごいですよね。
どこまでも破天荒なのに納得させられました。
書店でアルバイトをしている友人に
本屋大賞時
「シャングリ・ラが入るといいなぁ~」
と言ったところ
「でもさ、年に数冊しか本を読まない人にシャングリ・ラなんてオススメとか言えないって!」
と言われました。
考えたらそりゃそうですよねw
マンネリ化する作家がすごく多いけど
池上さんはどんどん突き進んでほしいです。
ではでは、また楽しみにしています。
Unknown
おお、再訪ありがとうございます。
池上永一そのものも、多少踏み絵的アヤシサがありますもんねー。
「シャングリ・ラ」はその中でも特に難しいや。
どうやったって一冊めには薦められない(^_^;)。
あちこちの感想を見ると、なんていうかなあ……、
ライトノベルというか、オタク的SFとして捉えている人も多いですね。
それで片付けられるのは、わたしとしては不満なのだが、
ではどこが画然とした相違かというと、なかなか「ここ!」と言いにくく。
「太古から連綿と続く“物語”の系譜に連なる鬱勃たるパワー」とか
ワケのわからぬ大上段な言い方で煙に巻くしかないかな~?
まあ、何しろ原始的なエネルギーがありますよね。
でも、難しいと思いますよ、こういうタイプの作家は。
本文でも書きましたけれど、次の作品を「お手並み拝見」という心持ちで待ちたいと思います。