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◇ 池澤夏樹個人編集世界文学全集「マイトレイ/軽蔑」

エリアーデ「マイトレイ」

エリアーデは昔々、宗教学の本を読もうとした。著作集の第1巻かなんかだったか。
そしたら難しすぎてさっぱりついていけず。
当時は今より諦めることは少なかったんだけど(わからなくてもつまらなくても
とにかく最後まで読んでいた)エリアーデと「ツァラトゥストラ」は諦めました。
哲学はあかん。

そんなエリアーデが小説を書いていたとはね!
しかも読み始めて思ったが、ずいぶん柔らかい小説じゃないですか!
びっくりした。

面白かった。読みやすかった。それも驚きだが。
著者の自伝的小説と聞いてまた意外。こんな恋愛をした人かあ……。

可愛らしい官能、の小説。少年少女の恋ですな。
なので主人公の設定が25歳というのは少々疑問。20歳そこそこに感じる。
まあ、この頃の5歳の違いなんて誤差の範囲内ですが。

現実に起こった「ロミオとジュリエット」というか。
現実に起こったからこそ、結局はすれ違って、ある意味で幸せな心中には至らない。

一人称小説だから、主人公からみたマイトレイの行動の不可解さがつづられ、
読者はそれに従ってマイトレイを知る。というか、知れない。
理想化といえば理想化、しかし現実といえば現実。その姿は瑞々しい。

ところで、親父さんに堰かれた段階での諦めが良すぎないだろうか。
臆病な男が、状況の難しさにびびってしまって、だらしなく手を引いたという
ことでいいの?そこまで状況は閉塞的だっただろうか。

その優柔不断ぶりが納得出来なかったので、後半は若干だれた。
話し合ってちゃんと決めろよ!と思っていた。物理的に手がないわけじゃないのに。
そしてお父さんの立場も、そこまで主人公に脅威というか、大きな存在には
見えなかったのに、お父さんに手紙でとがめられただけで腰砕けっていうね。
この辺り、納得出来なかったなあ。

しかも手を引くなら引くで、もう少しちゃんと引いてくれないと、マイトレイも
わたしも困っちゃうんだけどな。
本人の内部で何が起こっているにしろ、優柔不断に無視をするだけでは
問題は解決しないんだよね。

ふだん知ることのできないインドの生活が垣間見えたのは良かった。
それほど風俗や描写をがんばっている小説ではないけどね。
主に書いてるのは主人公の心情だから。

それにしても、官能を書いてこれほど可愛らしい小説になるとはね。
面白かった。読んで良かった。

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モラヴィア「軽蔑」

「マイトレイ」と「軽蔑」をこう並べてくることに、池澤夏樹の存在を感じる。
ふふん。と言っている。きっと。

が、「軽蔑」の方はそこまで、かなあ。
こちらも心情をじっくりと書いていて、読みやすく、読みごたえもあるんだけど、
何しろ主人公のグダグダっぷりが。
こういう風にグダグダ、ウジウジと考える気持ちは大変に同意できるが、
それをずーっと読んでいるのは飽きる。

冒頭ではもう少し動きのある話かと思ったのだが。
冒頭でもう理解する。エミーリアは本当は行きたくないんだなと。
そこに生じる不信感。それをもう読者は認識した上でこの後読んでいくわけだから、
最後の最後に主人公が正解にたどりつくのがもどかしくて。
もう少し前にたどり着いて、さてその上でどうなのか、という風にした方が
良かったんじゃないかなあ。

最後、こうしますか。うーん、二つのうちの一つだろうなあ。
あそこからめでたしめでたしになることはないわけだし。

なので、幻のシーンが出てきた時はびっくりした。えー、これってあり?
超ウルトラC級のどんでん返し。これをやられてはなあ……。
まあ幻だったわけですけど。

二作品とも訳が平易でありがたかった。読みやすかった。
ちゃんと読めたのも訳がこなれていたから。感謝する。

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