藤森照信さん。元々は建築史家。建築史家としてかなり顔が売れ始めた頃、
摩訶不思議な建築を作り始め、現在では建築家の扱い。
建築史家としては各論の時代を過ぎ、現代は「建築とは何か」を
考え続けている様子。
2010年発行のこの本まで、藤森さんが書いた本はだいたい読んでいる。
なので、この本に書いてある内容も全てが目新しいというわけではなかったのだが、
目新しいこともいくつかあった。
特に驚いたのは、建築史を選んだ経緯。
野蛮人で本能のままに生きているようなイメージの藤森さんですが、
大学生の頃に挫折を味わい、そこから文学に傾倒して、
(イロイロあるのでそれは本文を読んでください)
「死者の世界へ入るような気持で」歴史を選んだ、と。
藤森さんにとっては現実を捨てたところに歴史があったんだなあ。
そこに漂う絶望感。
「若い身空で歴史なんて死んだ世界をやろうなんて。
僕は現実を諦めた後、唯一の道として歴史を選びました」
こういうところに人間の見方の多様さを見る。
わたしにとって歴史とは物語でありファンタジーであり、ロマンなのだが、
黄泉の世界として入る人もいるんだ。
その頃にようやく、人間には外側と内側があって、それがどっちもないと
生きていけないのだと知ったとか。
それにまつわる丸谷才一との絡みもあったりして、興味深かった。
この辺も原文で読むのが面白い。
あ、この本は全編にわたって対談です。
このインタビュアーが良かったですね。たまーに話が専門的になって、
わたしなんかには意味がわからなかったりするところもあったけど、
おおむね突っ込んだ、内容のある話が聞けました。
写真も、さすが建築デザイン専門雑誌が作っただけあってきれいなもんでした。
作品も多数。わずかに物足りないのはA5サイズの本でもあり、
文章メインの本でもありということで仕方ないでしょう。
藤森さんについての本として秀逸。おすすめ。
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