面白かった。小論系の本として久々に会心。
宮崎市定は有名な中国歴史学者ですよね。昔々何冊か読んだことがある――
と思って思い出そうとしてみてもなかなかタイトルが出て来なかったが、
wikiを読んで気づきました。ああ。「隋の煬帝」だ。
でも蔵書である「隋の煬帝」を繰り返し読んだという記憶はないなー。ピンとこない。
学生の頃好きだった「十八史略」関係の本を書いていたかなーと考え、
ようやく思い当った。「世界の歴史 大唐帝国」だ。これも蔵書。
唐の時代に興味を持って関連本をあさった時期があるんですよね。
その頃おそらく何冊か読んだんだろう。「大唐帝国」は多分に教科書的な
概説書だけど、わたしはわかりやすくさえ書いてあれば、
教科書的な書き方も決して嫌いではありません。
わたしがいうのもなんですが、宮崎市定は文章力が高いですねえ。愉しい。
血の通った文章を書く。なので、雍正帝が非常に身近に感じられる。
真面目で、謹直で、他人にも自分にも厳しく、厳しすぎてユーモアさえ漂う人。
プロイセンのフリードリヒ・ウィルヘルム王をちょっと思い出した。
雍正帝はこの人より中庸でいくらか有能だっただろうけど、ユーモアを感じる
厳しさという点で同じ。
中国史上、雍正帝の父の康熙帝、子の乾隆帝の時代が「康熙乾隆の時代」と呼ばれ
良治の代表という言われ方をしているらしい。
しかし宮崎市定はその間にはさまる、従来光が当たらない雍正帝を
清の政治を固めた重要人物と見る。
数多い地方長官に個人的に連絡を取り、私的な問題提起、地方政治上の意見を
ひろく集め――というよりそういう精勤を要求し――その様はまるで
皇帝と地方長官の交換日記だ。
内容がない文書には「もっと頑張れ」と叱りつけ、
いい内容の文書には「よく精励しているな」と褒め。
修飾の多い文書には「要点を完結に述べよ」と小言をいう。
雍正帝はひたすら働いた人。一日十数時間。朝4時頃から公務を処理し、
地方長官とのやりとりは私的な仕事として公務が終わった後、夜中まで。
万民の安寧を願い、それに対して官僚はこき使った。
当然官僚はうんざりするが、皇帝自身がそれ以上に勤勉に働いているので
文句を言える人はいない。
この著作では皇子たちの動静以外の家族状況や私的生活は書かれていない。
多少の愉しみはあったのではないかと思うが。
せっかく皇帝になったというのに、もう少しいい思いをしても
良かったんじゃないかと思うほどですね。
こんな雍正帝を宮崎市定は愛したんだろう。揶揄するようなからかうような口吻で
しかし愛情深く書いている。それが伝わる文章。
読んでいて本当に楽しかった。
弟子に砺波護さんがいるようですね。この人も名を忘れ難い学者さん。
それほど一般書を書いている人ではないので読んだのも数冊だが、
馮道に対する愛は印象に残った。
この師にしてこの弟子ありというべきにやあらむ。
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