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◇ 北村薫「ひとがた流し」

涙と鼻水で呼吸困難になった。
……その上で言うが、

北村薫。少しゆるくなったなあ。

わたしが北村薫と出会ったのは「冬のオペラ」。
主人公が19歳?の女の子で、その繊細な感情を書いていて衝撃を受けた。
読んだあとはずーっと作者を20代の女の子だと思っていて、
しかし実際北村薫がそれが書いた当時40代半ばのおじさん……!
それを知った時はさらに衝撃。信じられない。女の子の心情をあんな風に書くなんて!

その頃の北村薫は書きたいことを全部書かず、柔らかな自己韜晦のヴェールに隠す。
それは若さ特有の恥じらい。そのぎりぎりの線が好きだった。
砕ける波頭の、砕ける直前のその一瞬の力加減が好きだった。

が、それから十年以上経って、60歳の影も見えて来た北村薫は――
ぎりぎりの恥じらいが薄れ、書きたいことを書くようになった。
それはほんのわずかに放恣で、少々べたつき、昔感じた繊細さが薄れていた。

北村薫。歳をとったな。

まあでも話としてはいい話でしたけどね。
わたしは嫌いじゃないけど――だが少々ストレートにいい話すぎたかなと思う。
40代半ばの、3人の女性の友情。

出来れば最後までそれだけで行って欲しかったけどね。
話の後半は友情よりは、鴨脚屋さんとの話になり、そしてこの鴨脚屋さんとの
(ちなみに自分でも忘れるだろうから書いておくけど「いちょうや」という苗字)
関係性があっという間に進みすぎ。

10年以上前に10歳年下の後輩として出会って、その時もその後も
これといった交流があったわけではなく、しばらくぶりに会って、
ほんの数回でそこまで関係性が進むわけがないのだ!安易に感じた。
鴨脚屋さんは鴨脚屋さんで、いてもいいからもう少し無理のない形にして
欲しかった。

あそこまで子どもたちのことも書くなら、後半部分ももう少し詳しく書いて
欲しかったけどなあ。玲やさきの心情は物足りなかった。

いい話だけれど。北村薫だからこそ、もう一段上を求めたい。

ドラマには一度なっているようだけど、また別に見たいなあ。
丁寧に描けば連ドラの長さでもいけるんじゃないだろうか。
それとも映画向きか。ただ牧子も美々もキャラクターとして立っている
というほどではないから、ドラマにするのは少し難しいか。

わたしは主役には天海祐希しかイメージできない。実年齢少し高いけれども。
堀内敬子を牧子か美々にキャスティングしたい気がしている。
でも「どっちか」と迷うってことはぴったりってわけじゃないんだよね。
そして天海祐希、堀内敬子とのバランスがとれる、三角形の3点目の頂点が
思いつかない。こういう時って俳優一覧とか欲しくなるよね。

そして読み終わって驚く。これ、新聞小説か!
わたしは、新聞小説はどうしても間延びする傾向があるので評価はイマイチで、
読んでいる時にたいだい違和感を持つのだが、今回は読み終わるまで
全く気づかなかった。ここはさすが北村薫だといいたい。

まあわたしは泣かなくてもいいふんわりしたミステリが読みたいですよ。
そういうものを期待したい。北村薫には。

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