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◆ ウィリアム・モリス 原風景でたどるデザインの軌跡

宮城県美術館でだいぶ期間を遅らせて開催。迷ったけれど行ってきました。

本来行なう筈だった、入口の説明映像が密を避けるために中止になっていたので、
特に序盤の印象はスカスカでした。まあそれはしょうがないかなー。

本来の展覧会の規模としてもおそらく中どころだったと思う。
がっつりという感じではなく。
何しろウィリアム・モリスの――展示としては壁紙とテキスタイルをただひたすら
並べているだけなので、それほど目を驚かせるものはない。

今回、特にこれといった新しい発見はなかった。
でもまあモリスデザインのきれいなヤツをたくさん見せてくれたので満足。
額にいれて飾れる値打ちのあるデザイン。

テキスタイルよりは壁紙の方が印刷の感じとかも含めて好きだなーとか、
このデザインだと和風の家には無理だよなーとか、
柄に対するサイズ感がやはり西洋人と日本人、しかも100年前の人と現代の、
とでは違うなーとか思ってきました。

後半はケルムスコットプレス出版の本が相当な数並んでいた。
だいたいデザインは擬古風であまり変わり映えしないんだけど、
文庫本くらいの本が擬古風に作られていたのはちょっと面白かった。

モリスの住んだレッドハウスの写真も多数。
イギリス風景はわたしにとって癒しになる。行きたいな。

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モリスをさくっと1時間弱見て、どうしようか迷ったけど常設展も見ました。
見て良かった。

好きな川端龍子の「和暖」が出てないかと思ったけど出ておらず。
それより、入ったところにわたしの嫌いなタイプの現代アートのでかいヤツが
展示されていて、こういうのを買うなら小品でもいいからきれいな日本画に
して欲しい……とがっかりした。

今回の収穫は太田聴雨でした。

太田聴雨。名前だけは日本画家として認識があったけど、絵はまったく見たことが
なかった。
宮城県美術館、前から持っていたんですね。最近買ったのか?と思ったが、
二十数点並んでいたうち、新収蔵品にはそう書いてあったから(4枚ほど)
他は前から持っていたんだろう。持っていたなら惜しまずに見せればいいのに。
まあ多少は見せていたんだろうけど。

わたしは人物画にあまり興味がないので、全体的には太田聴雨を好きなタイプには
分類出来ないんだけどね。

1935年以降の絵が各段に上手くなっている。
ごく乱暴なことをいえば、それ以前は下手だ。
わたしが長年日本画に興味がなかったのは、全体的に日本画の画家のデッサンが
下手だったからではないのか。

今は日本画もデッサンの訓練をするだろうけど、昔はどうだったんだろうなあ。
最低ラインのデッサンが出来てない絵とかたくさんあるよね。
歴史的にはそういうもんだで済んでいただろうが、
西洋画を見慣れた現代人から見るとシンプルに下手に見える。

聴雨のその部分が劇的に改善して、線もきれいになって色もきれいになったのが
1935年の「日時計」から。
これはきれいにまとまったきれいな絵。これが型にはめられた結果なのか、
前田青邨に師事した結果なのかというのはわたしは判断が出来ないけれども、
絵としてはこれ以後の絵が好きだ。

「初夏」なんかはため息の出るような美しさ。
女の髪も、頭に巻いた布の色合いも、眉の線も、
すべてが「決まった!」といいたい完成度。

初期の絵だと「陶工」というタイトルの柿の木が良かった。
これは柿右衛門の伝説をタネにした絵らしい。
柿右衛門の伝説は知らないが、調べるのが面倒なので調べない。
人物には興味ないが、柿の木が大変かわいくて良かった。

初期作品に「キリスト」という二曲一双の屏風があった。
これがけっこういろいろ物を考えさせた。

マリアと幼子キリストの前に人々が跪く礼拝図は世界中で何万枚と描かれて
いるだろうが、礼拝しているのが全て女性と子どもというのは、
その中でもかなり珍しい部類の絵だろうと思う。
なんだったら全て男性でしょう。礼拝している人は。

この制作意図は、ととても不思議に思う。
聖母子はそれなりに威厳を感じさせるが、全員女性と乳飲み子なので、
見た雰囲気は保育園。
女性たちはだいたい合掌しているが、キリスト教というより
どちらかというと仏画の雰囲気を感じさせる。

これが意図したものなのか、それとも純粋にキリスト教的に描こうとして
果たせなかったのか、謎。

女性だけで描いた意図は……。
キリスト教は結局のところ「父なる神」の宗教だから、男性優位なんだよね。
十二使徒にだって女性はいない。まあ仏教もそうだけれど。

母なるものを求め続けた聴雨の主題ということになるのか?
そういう簡単な落ち着き方でいいのか?
聴雨のことをよく知らないので、なんともいえない。
聴雨とキリスト教との関わりも若干複雑そうなのだが……

今回佐藤忠良記念館には行かなかった。

今後、特別展はわりと良さそうなのが並ぶ。
リヒテンシュタン、東山魁夷、中宮寺。近年にない豪華なラインナップ。
状況的に純粋に楽しみだーといえないところがなんだけれども、楽しみです。

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