もしかしたら初円地文子かもしれない……
いやー、がっつりした王朝小説。ゼロからこれを作れたのならすごい!と思って
読み終わったら、元ネタありだったのでそういう意味では若干の肩透かし。
いや、しかしとても面白い王朝物でした。好き。
「夜半の寝覚め」が元ネタなんだそうですね。
名前は聞いたことがあるけど、それ以上のことは何も知りませんでした。
「とはずがたり」と何となく混同していた。
だいぶ散逸があるそうですね。半分くらい散逸しているそうだ。
やはり源氏を訳したほどの人は違う。
王朝風俗が身に着いている感じで、話の運びも小道具の使い方も、何の不満もない。
ただわたしとしては、男女が同席する時はもう少し物々しさがあるかな、
と思う程度だ。
wikiのあらすじを読むと、この「やさしき夜の物語」はかなり「イイ話」に
寄せているらしい。
行き違いがあって、姉の婚約者を寝取る結果となった主人公と、義兄となった恋人。
主人公は姉への罪悪感と恋人への思慕の板挟みで悩み、姉は嫉妬を止められず、
姉妹の仲も険悪になってしまう。
義兄も主人公を諦めきれず苦しむ。
そこへ、もう老人の太政大臣が主人公の美しさを伝え聞き、妻へと迎える。
太政大臣は大きな愛で主人公を包み込み、最初は恋人への恋慕ばかりで
苦しいだけだったのが、やがて夫の素晴らしさに気づき、心から愛し始める。
そんな人格者の太政大臣が亡くなり、主人公が見とるところで幕。
太政大臣の造形にやはり打たれる。
こんな聖人君子はいないだろうとは思うけどさ。でもこの清らかで大きな愛に
包まれたら、それは人としての冥利に尽きるというものだろう。
文庫160ページ程度の中編。久々に柔らかな王朝ものを読んだ。
今後も円地作品、何冊か読むつもりでこれが最初の1冊だったけれど、
これを読んだことで期待が高まって来た。
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