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◇ クリスチアナ・ブランド「招かれざる客たちのビュッフェ」

これは「悪意漂う」本。

切れすぎるほどキレはあるけど、旨みがない。後味悪い。好きじゃない。
……まあ、一言で言えば感想はこうなる。短編16編、読み終わるまで少々不快だった。
あ、ちなみにミステリ。40年くらい前に書かれたものにしては、まだ抜き身の鋭さ、といったところ。

これを読んだのは、ネット上で「面白い」という感想を見たからなのだが、いや、やっぱり好みというものはね。
たしかに面白いという人がいるのもわかる。そういう人はこのキレを愛するんだろう。
でもユーモアミステリ好きのわたしは……後に残る「悪意」に辟易する。
一編読み終わるたびに、渋柿を食べたような、いやぁな渋みが口の中に残る。
文庫本ではあるけれど、500頁超なので、この渋みを耐えるのは結構苦労した。

短編だから仕方のない部分はあるだろうが、話の始まり方がけっこう暴力的なんだなあ。
唐突に始まる。足元を固めないうちにさっさと先へ行ってしまう。皮肉な口調で「謎」を語り、
「わかる?」と冷たく笑いつつ、謎解きはさらに輪をかけて冷たい。
いや、人間がアマイわたしには、ちょっと読みにくい作風。

クリスチアナ・ブランドは、わたしはこれが2冊目で、1冊目は「ハイヒールの死」。
それがデビュー作らしい。でも今ひとつ好きじゃなかったんだなー。
登場人物が魅力なくて。デビュー作だからか?とも思ったが、もしかして「悪意」のせいだったら
どうしよう。これからシリーズ物に着手する予定なんだが、この悪意がずっと続くのだろうか。

2冊読んでキライだったのを、別に無理して読まなくてもよろしい、という考え方もあるが、
でもって、読むの止そうかと思わないこともないけれども、やっぱり読む。
なぜなら「ビュッフェ」の解説が北村薫で、彼がコックリル警部シリーズの中の
「ジェベゼルの死」と「はなれわざ」を賞賛しているから。

北村薫は好きな作家だ。……正確に言うならば「わたしの好きな作品を(たまに)書く作家」。
癪にさわるほど色々な本を読んでいる人なので、自分がここで退却するのは何となく口惜しい。
そうかい、じゃあ読んでやろうじゃないの、「ジェベゼルの死」と「はなれわざ」。

と、ここで解説に話は移る。本文よりも、北村薫の解説の方にひっかかった部分があった。
彼は、ブランド作品を「意地悪」と表現する。

>ブランド作品の与えるイメージを言葉にしたらどうなるか。
>私にとっては、何といっても《意地悪》である。

……言葉の使い方はその人自身のものだ。でもわたしは、ここで「意地悪」という言葉を使う
北村薫が不思議だ。だって、この引用の直前の行に、「しかしここに漂う悪意はどうだろう」と
言っているから。それなのになぜ「意地悪」と言い換えるのだ。「悪意」じゃなくて。

わたしはどーしたって、「悪意」の方が相応しいと思う。意地悪って、かなり幅の広い言葉、
捉え方によってはわずかなユーモアを含んだりしませんか?こんな、冷たくて皮肉な書きぶりには、
「意地悪」よりも「悪意」だと思うのだが。

人柄的に穏やかな人らしいから、悪意と言いたかったところを、少し刃先を丸めたのかな。
あるいは他のブランド作品を読むと、ユーモアが感じられる部分もあるのかな。
(しかし北村薫は、解説の中で、ブランド作品にユーモアがないと言っていると思う)
……まあこんなところが気になるので、やっぱりもう何冊かは読んでみないといけない。
その後、わたしが「悪意」と言いたいか「意地悪」と言いたいか。
「はなれわざ」を読み終わったあとに、また考えてみることにしよう。

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