吉屋信子は源氏物語までやるのか。幅広いなー。
……と感心したんだけど、ちょっと考えてたのと違いました。
これは「源氏物語」というより「源氏物語抄」ですね。
教養のある祖母が、成人している三人の孫娘と近所の人、ちょっとした知りあいになった人、
5、6人を相手に、源氏物語のあらすじを語っていく話。
まあまあ面白かったんだけどね。
でもこの体裁なら、「説き語り源氏物語」というタイトルにしなければフェアじゃないんじゃないかと。
説き語りだから、まあいうたらそこまでの文章の完成度も要求されないわけですよ。
源氏物語を訳すといったら、作家にとってエベレストにとりつくような根性が必要であろうが、
説き語りだと高尾山とはいわないけれども、まあどこですか、立山くらいですか、
だいぶハードルが下がる。山登りをしたことはほとんどないが。
その家庭の状況を書いて、箸休めにすることが出来るんだものね。
とっつきやすい、読み手にとっても書き手にとっても、という利点はあるけれども、
これを「源氏物語」というタイトルで売られてはなあという気がする。
そうすると、もうこれで「源氏物語を読んだ」と思ってしまうわけでしょう。
そんなわたしも「与謝野源氏」「田辺源氏」しか読んでなくて、
「源氏物語」を読んだ気になっている口ですが。
登場人物は登場人物で、とりあえずの台詞を喋っているだけで、
別にそっち側で話が展開していくわけでもなく。
多少の展開はあるけれども(出征していた夫が帰って来たとか、満州にいた両親が帰国できたとか、
近所に住んでいたやり手の日系2世のビジネスマンと知りあいになったとか)、
別に大した出来事はないし。
創作物として、わたしとしてはあんまり評価できないなあ。
でも「源氏物語」がどんな話かってことにうっすら興味がある人なら読んでもいいと思う。
戦争直後の中流上の家庭の雰囲気を伝えているという点にも意味がある。
だが、とりあえず「源氏物語」を押さえておきたいという人になら、
「田辺源氏」が断然おすすめですよ。
読みやすさと香りの点からいって。
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