(まくら・その1)
非破壊検査株式会社は好きだ。
理由は、ただ一つ。時々、美術特番のスポンサーになっているのを見かけるから。
一年に一度だろうか、二度だろうか。なかなか有名どころの女優さんを旅人にして、
美術関係の事物をめぐるって番組をやるんですよね。
正直に言うと番組の作りには、段々衰えを感じている。
でも、NHK以外で美術を取り上げてくれる番組って少ないし、
一企業がお金を出してくれて作るものとしては、なかなか趣味がいいと思う。
てきとーな特番、あるいはスポーツなんかの協賛にお金を使うところは多いけれど、
そういう無難な選択ではなく、1時間半~2時間の特番制作、
しかもテーマは事業内容に関わりがないこともない美術分野、
そういうところに好感を持つ。「なんかイイヒト」な感じがする。親近感。
まあ、わたしが生涯一度でも関わりをもつような会社だとは思えませんが。
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(まくら・その2)
今回は(といっても一ヶ月くらい前に放映された番組だけれども)
女優が天海祐希、テーマは「日本が生んだアールヌーボー」でした。
内容はまあ、ありがちな……
つまりはアール・ヌーボーのあの時代、ヨーロッパでは東洋趣味が流行っていて、
目を皿のようにして見てみると、ひょっとして日本から影響を受けたのか?という
モチーフが散見される、という。ちょっと日本を捜しすぎて、鬱陶しかったなあ。
天海祐希が良かった。わたしはこの人を、日本映画史上最大の汚点である「千年の恋」でしか
不幸にして知らないのだけれど、それは本人の罪ではないので。
元々抱いていたイメージは悪くなかった。何かさっぱりしてそーなアネゴじゃないですか。
そしたらその通りの人ですね。もう一人の出演者としてバンドネオン奏者の何だかさん
(すまん、はるか昔に見た番組なので、もう名前が……)とのやりとりなんかも
どことなく体育会系を感じさせて、面白かったし。
何より、普段から美術系統がわりあい好きで、見ている人なんだろうなと思った。
コメントで、ある程度わかりますものね。
この特番は、いつも女優さんのチョイスに少々の良識が感じられるのも
好きなところの一つだが、でも全員が全員、美術に興味がある人ではない。
旅人を「演じて」いる人も大勢いた。まあそれはそれで構造的に全然構わないけれども。
でもやっぱりシナリオ通りじゃなくて、生の感想の方が見てて愉しい。
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(本題……?)
アール・ヌーボーといえばガラスのエミール・ガレ、これはまあ動かないところだと思う。
ガレのいた町がナンシー。パリの地下鉄の入り口なんかも時々ヌーボーが残ってるし、、
わりあいフランスのイメージがありますよね。
が、わたしにとって今のところ最大のピンポイント的「ヌーボー!」は
ブリュッセルのオルタ邸。建築家本人の自宅。
実に美しい家だ。いや、外観は大したことない。
様式はヌーボーでも、少々しょぼくれて見えますからね。
でも、一歩中に入ると。これが外見からは予想できないほど素晴らしい。
何が素晴らしいって、実に居心地が良さそうに思えるところ。
曲線に幻惑される。あれだけ使っていたら、濃密過ぎてうるさくなりそう。
そこが軽やかに調和がとれているのは、一つ一つがやりすぎていないからでしょうね。
やりすぎると重くなるけど、ラインがみんな繊細で優美。ロビーの手すりなんて、
まるでワルツのようですよ!
……が、掃除は大変だろうと思う。あんなに入り組んだ、ひねくった木材や鉄の飾りが……
埃が溜まりそうだなあ。掃除はどうやっているんだろう。
現代では、こういうものはもう無理でしょうね。埃もそうなんだけど、
木の手すりなんかも曲線が複雑すぎて量産は出来なさそう。手作業なんだろうなあ。
鉄の装飾も、手でうって作っているものらしいので、やっぱり製造ラインには乗せられない。
仕方のないことなんだけど、量産出来ない=今はもう出来ない、になっちゃうのが惜しいなあ。
オルタ邸で一番気に入ったのは、実は、とあるドアの取っ手。
いやいや、実に美しい。どうやってこういう造型を思いつくんだろう?と思う。
考えたものというより、生まれたものという感じだ。優しくて柔らかくて、
植物のたおやかさと無垢がある。……と、ここまで言ったら言いすぎか。
この取っ手には憧れている。いつの日か大金持ちになったらぜひ模刻して
自分のものにしたい。
ブリュッセルはなかなかにヌーボーが多いらしいので、他のところにも行ってみたいですね。
オルタの作品をもっと見てみたい。およそ百年くらい前の建築、というわりあい新しい
部類なので、公開されているのかどうかが微妙なところ。注文主の孫くらいがそのまま
住んでいそうではあるが……
なんかぐだぐだになったが。
小学館 (1998/02)
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わたしが愛するドアの取っ手は、この本の18ページ、取っ手の写真が4枚あるうちの右下。
うーん、愛しい。
ところで非破壊検査株式会社のHPでは、別なページからTOPに戻ると、
その度にTOPの風景写真が変わるようになっている。なかなか芸が細かい。
こういう部分に気を使える会社って、なんかいいなあ。
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