豊穣の海、完結。
……1巻2巻は好きとはいえないにしろ良かったと思うんだけど、3巻4巻は面白くなかったなあ。
4巻は、3巻の後半ほどの迷走は感じなかったが、うーん。
冒頭、話が始まる前に延々と風景の描写?が続くのはかったるかった。
ちょっともう本を返してしまったので、正直話は覚えてないんだけどね。
透が出てきて、本多が出てきて、ある程度話が動いてからの方が描写が活きたと思うのだが……
おじいさんは山へ柴刈りに、おばあさんは川へ洗濯に、というくらいまでは
描写の前に語って欲しいんだよね。
透は、清顕の生まれ変わりっぽい要素はたしかに持ってる。性格の悪さもある。
清顕と透では方向性が違い、透は俗っぽいが。清顕が高尚というんでもないけど。
わたしの不満は、後半透が安易な家庭内暴力に走るところだな。
三島由紀夫だったら、なんかもっと虐めにも趣向を凝らして……と思うのは望みすぎなのか?
意外に、3巻から引き続いて登場の慶子さんが意味の大きな台詞を言う。
それはそれでいいが、そうなるとやっぱり本多が魅力的じゃないんだよなあ……
慶子さんにこんなことを言わせるんなら、全4作を通じた唯一の(だよね?)演者である
本多にも、これという見せどころが欲しい気がする。
最終盤の聡子さんに会いに行くのはたしかに本多だけれど、あそこも聡子さんの方に
スポットライトが当たってるしな。
本多は狂言回しなので、それでいいという考え方もあると思うが、
3巻4巻はワキともシテともつかない中途半端な描かれ方をしているように思う。
聡子さんといえば、あの一言は衝撃的だった。まさかそう来るとは思わなかった。
実は読んだ時に「そう来るか!」と呟いた。
しかし1巻以来のご出演であの台詞を言わせちゃうと、
全然キャラクターの連続性が感じられなくなってしまうわけでしょう。
1巻の聡子さんを髣髴とさせるものが4巻の聡子さんに全くないし、
そういう部分を書いた上であの台詞ならば活きようが、
今から思い返すと、あの台詞を言うのはもうどこぞの尼寺の庵主さんでもいいんじゃないか、
という気にもなるわけです。乱暴ですかね。
乱暴といえば、20年ぶりくらいにノゾキを敢行した本多と、たまたま出会うのが
ノゾキ仲間(?)で、それがすぐわかって声を掛けて来るというシチュエーションはだいぶランボー。
そしてそこでたまたま通り魔事件が起こるなんて……
やれやれな感じ。
まあわたしは総じて3巻4巻は不満でした。
1つ1つのエピソードはいいとして、それが全体として美しく築き上げられた気はしない。
1巻2巻は1つの塊として成ったと思うんだけどね。
ただ「天人五衰」という言葉の意味を今作で初めて知って、
その部分には物を思うところがあった。
こういう言葉を身の内に抱えて若い頃から生きて来たとしたら、
……言葉が心のうちでとぐろを巻く。
知らないで済めばその方がいいかもしれないと思う言葉。
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