PR

< ペンギン・ハイウェイ >

堪能した。

評価がそれほどでもないようだから、あんまり期待しないで行ったんだよ。
予告はすごく素直な少年ファンタジーなんだが、それだけのものになるはずないし。
不条理感で消化不良になることを予期していた。
わたしは森見登美彦好きだけど、原作もそれほど感心しなかったしね。

でも映画はすごく面白かった。
そんな風に言うと森見登美彦は泣くかもしれないが。

主人公による自己紹介から始まる落ち着いた作りが地味に好きだ。
昨今、冒頭に話を突っ走らせちゃって「なになに?」と興味を引き付ける手法を取るものが多いが、
それが効果的に働くのかどうか、というのは疑問。まあジャンルによるけど。

全体的には、やっぱり子供向けの皮を被った不条理ファンタジーなので、
子供が見て面白いかなあ。まあ大人が見てわかる話ですよね。

でも小4という設定が絶妙。これが小5だと大人の入口に立ってしまって、
あんなにおっぱいおっぱい言えない。
おっぱい!と叫んで罵りあう小4男女。大人目線で見てオモシロイ。

しかしそれにしても、ウチダ君は子供っぽすぎましたね。
小1、2くらいの造形に見えた。ウチダ君にもう少し魅力を付け加えて欲しかったなあ……
そうすると話に奥行きが出たと思うのに。
ハマモトさんにとってもウチダ君は空気で(無視しているわけじゃないのがまたツライところ)、
好きな相手なんだから仕方ないとはいえ、アオヤマ君しか見えてない。
小4にもなると、自分の好きな人についてはもう少し韜晦するもんなんじゃないだろうか。

わたしが上手いなあ、と思ったのは、“海”が、視覚的にはとても美しい、平和な物体であること。
あれがそもそもドロドログチャグチャの物体だったら、近くでリゾートパラソルを立てて
研究!とか言えませんよ。一見無害であるからこそ出た平和感。
そして巨大に膨れ上がった時の、見る人の気持ちは……スローな津波。
やはり“海”。

話としては、だいぶ謎ですね。わたしもわからなかったけどさ。
全てを少年の仮説として言わせているだけで、色々なものの正体については、
結局みんな“かもしれない”ってことでいいですよね?

ただどうも難癖をつけたい部分があって、海とペンギンとお姉さんがそういう風に繋がってるなら、
ペンギンが海に対する行動は論理的にはあり得ない。
まあ人間が地球を追いつめていっている現状を考えれば、その事自体はないわけじゃないんだけど、
何しろ作品世界はシンプルなだけにダイレクトな関係で結ばれており、
その中でのあの直接性は無理があるな。

途中、お姉さんがアオヤマ君をユーワクしちゃうんじゃないかと思ってハラハラした。
あそこももう少し抑え目にしてくれた方が好み。
そして、おっぱいクローズアップは多すぎ。もう少しエンリョしてほしいよ。半分くらいに。

文句なく良かったのは、画面の疾走感だな。
クライマックスのシーンがいいのは当然として、ペンギンが飛ぶところも泳ぐところも
すごく気持ちいい。この気持ちよさはなかなかない。
あとはペンギンがのたっと転ぶあたりの質感もいい。お餅みたい。
とにかくペンギンが可愛いよ、ペンギン。

時々お姉さんの絵が「え?」と思うほど崩れていることはあったとはいえ、
全体的に、絵も上手すぎず上手い。
宮崎駿がピークを過ぎた今、最も注目されているアニメーション監督は新海誠だろうけども、
新海監督ほどぴっちり風景を作ってくるのではなくて、適度な緩さもある、気持ちのいい風景。

やっぱりジブリを思い出す。「アルプスの少女ハイジ」からの系譜じゃないかと思うもの。
ジブリ経験がない30歳の監督というのが意外なほど、ジブリの匂いを感じる。
まあわたしは嬉しいけれども。
石田祐康という人だそうだ。今後期待。

声優陣は、エンド・クレジットで「そういえば!」とようやく思い出したほど、
声を意識せずに見られた。そういうのが成功。
声を聴いてて本人の顔が目の前にチラチラするようでは名作たりえません。
北香那は、メイキング番組に出ていたのを見て応援したくなった。
気づかなかったけど「バイプレイヤーズ」の中国人の女の子か。今後ご活躍下さい。

ほんと、ウチダ君の造形だけが……難。
あとは満足です。大変楽しい作品でした。ありがとう。

コメント