セイヤーズは、はるか昔に「ピーター卿の事件簿」という短編集を読んで、
それがつまらなかったので、他は読まなくてもいいや、と一度放り出した作家。
なんかのきっかけで長編を読んで、その後はまあ全部読みました。
が、素直に「面白い!」とは言えないんだよなあ……。
どっちかっていうと好きなんだけどね。
クリスティと同時代とは信じられない思い。クリスティよりはるかにモダンに見える。20年くらい。
そしてクリスティより格段に読みにくい。
多分2年くらいかけて読んだんだろうから、前に読んだ作品のことはほぼもう覚えていないが、
最近だった「殺人は広告する」「ナイン・テイラーズ」「学寮祭の夜」は覚えている。
とにかく長いんだわ。本作なんて文庫で700ページ超。読むのに4、5時間かかったと思う。
この人さ。エンタメ作家として割り切って書けば、もっとすっきりわかりやすかったと思うんだよね。
キャラクター物で良かったと思うんだけど、それじゃダメだったのかね。
キャラクターは基本魅力的なんだし。クリスティだって、世界中であんなに売れているのは、
とにかくポアロなり、ミス・マープルなりのキャラクターがいいからだよ。
しかしセイヤーズは、せっかくのキャラクターを活かさずに中途半端にしてる。
こういう部分をもっと膨らませれば!とすごく思った。読んでてストレスが溜まった。
バンターとか、毎回たっぷり出て来てもいいキャラクターでしょう。
それなのに、出たり出なかったり。
パーカー警部だって出たり出なかったり。
お母さんももっと出て欲しかった。
ハリエット・ヴェインは、……あんな立場で出てきたら、シリーズ物として出てこない話が
あるなんて許せないのに、出たり出なかったりなんだからね!どういうことやねん!
ピーター・ウィムジィ卿も、かっこいいのかかっこ悪いのかはっきりしない。
シリーズを通じてイメージにブレがある気がするが、どうか。
初期作品読んだ頃に、こういう設定なら、かっこいいとしとくべきところじゃないか?
と思った記憶があるから、最初はあまりかっこよくないんだよね。
内面の複雑さは、キャラクターの魅力になり得るけど、話全体のバランスとして
この複雑な内面は妥当だったかどうか……
ポアロのフクザツな内面を書いて、それで面白くなるかどうか考えれば自明。
ま、クリスティを読みたい人はクリスティを読めばいいんだし、
セイヤーズも引き比べられても不本意だろうが。
ミステリとしてのプロットの優劣はわたしは語れない。特に不満は持たない。
正直、本作に関しては謎解きってほどの謎解きではないと思う。
別にそこは重要な部分ではない。
蘊蓄部分がなー。蘊蓄っていうよりもその小説ごとの特記事項ってのかねー。
この分量が多すぎるんだよね。
「殺人は広告する」広告業界について。
「ナイン・テイラーズ」教会の鐘の演奏法について。(わたしはてっきりこのタイトル、
9人の服屋さんという意味の地名か店名だと思っていたが、九点鐘といって死者が出た時に
教会が鳴らす9回の鐘のことなんだって。)
「学寮祭の夜」オックスフォード大学について。
それぞれの内容は十分面白いんだよ。
この時代の広告業界もこんなんか!という驚きも味わえれば、
鳴鐘術について読める機会もそうそうない。
作者自身が最初期の女性オックスフォード大学出身者となれば、それについて書いたことは興味深い。
だが、ひたすら長いのだ。
プロなんだからもう少し刈り込んで欲しかった。
ミステリ3:キャラクター3:特記事項6くらいの現状を(数字は私見に基づく)
ミステリ3:キャラクター5:特記事項3くらいだったらもっと面白くなったんじゃないかなあ。
登場人物の人数もね。
とにかく、本作に女性学者が11人、女性使用人が5人、女学生が7人出てくるのは
いくらなんでも多すぎる。せめて6割にしてくれ。
その分犯人の確率は高まるが、そこまで犯人当てがメインの話じゃないから、
それはそれで構わないじゃないか。
でもまあ部分的に、いいと思うところも色々あるんだけどね。
オックスフォード大学のしきたりなんかも面白かったし、初登場の甥がかっこいいし。
でも別にウィムジィ卿をそんなに席の温まる暇もないほど忙しい人にさせんでもいいと思う。
700ページの半ばをすぎてからようやく登場。
まあそれまで手紙とかで存在は一応確認出来るけれども。
エンタメに徹せなかったのが瑕かなあ。
そこが良いという人もいるだろうけどね。わたしはそこが残念。
あ!「学寮祭の夜」で終わりかと思っていたらもう1冊あった!
ちょっと嬉しい。あとで読もう。
東京創元社
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