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◇ 梨木香歩「雪と珊瑚と」

基本的にこの人の作品は好きなんだけど(一応全部ツブしてるし)、
近年の作品は生真面目なテーマ過ぎるのが、わたしにとっては玉に瑕。
ナイーブで繊細な作品を、あまりにも問題意識を持って書かれると息苦しい。
もう少しエンタメ寄りの方がいいな。
今までの著作のなかで一番好きなのは「家守奇譚」ですね。あと「村田エフェンディ」か。

本作はわりとあっさりした話で、魑魅魍魎の類は出てこない。マジメマジメ。
主人公は相変わらず内省的。よく物を考えるこういうタイプの子が、……いくら親子関係に
問題があるといっても、20歳で妊娠・出産し、しかもその覚悟のない相手と結婚して、
21歳で離婚しシングルマザーという道を進むかなあ。
まあ作者はそういう偏見も打破しようと思ったのかもしれないけど。
わたしとしては性格と年齢設定に疑問を感じた。

カフェを開くという経緯も、21歳という年齢がネック。
せめて25、6歳ってんならね。まあわたしにとっては21歳も25歳も一緒くただが。
しかし21歳でシングルマザーで、社会経験もなく、担保も何もなしで、
銀行はお金を貸してくれるんだろうか。わたしは銀行については詳らかにしないけれども、
そんなに甘いもんじゃない気がする。

まあでも、上述の女の子が、周囲の善人たちの助けを借りながら雰囲気のいいカフェを作り、
店としてある程度成功してENDなので、話としては気持ちいい。読んでいてまったり。
安心と定番の梨木香歩。

うーん。しかし言うたら、現実の皮を被ったファンタジーだと思う。
梨木香歩は「僕は、そして僕たちはどう生きるか」でも取り上げたように、
“傷つけられた弱者としての子供”に対するエールを書いたかもしれないんだよね。

優れた物語には大人向け、子供向けという区別は“概ね”ないと思うし、
(しかしやはり読んだタイミングというのはその作品に対する感想を大きく変える)
この本も万人に訴求するものを持っていると思うのだが、

この主人公と境遇が似ている人がいるとして、その人が同じように銀行にお金を借りに行った時、
おそらくけんもほろろ――とまで行かないにしても、まずお金は借りられない。
としたら、エールとしての意味は半減するというものではないかなあ。
読む人みんながそこまで単細胞に読むとも思わないが、わたしとしてはその部分気になる。
くららさんの存在も十分出来すぎのファンタジーだが、そこはまあ乗り越えられるにしても。

読んでる分には楽しく読めますよ。相変わらずの梨木節で。
でも「そんな簡単なもんじゃないだろう」と呟きたくなるわけで。
努力しても報われるとは限らない世界で、「努力すれば報われるんですよ」という話を書くのは、
まがい物のエールではないかと思うのです。

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