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< 悦ちゃん 昭和ダメパパ物語 >

獅子文六の「悦ちゃん」。なつかしい。

うちのおやじさんはマンガとボードゲームの類は山ほど買ってくれた人だが、本をお土産にということはめったになかった。
その珍しい本のお土産の何冊かのうちの一冊が「悦ちゃん」。小さい頃に読みました。
正直、そんなに子供向けの話ではなかった気がするが……。子供が読むには含蓄のある話ですよね?
買ってきてくれた時は読んでもよくわからず、面白くなったのは小学校高学年くらいになってからだろうか。
中学生くらいになってたかな?

まあ当然それから数十年読んでないもので、詳細は覚えてないわけだが、
今回のドラマは悦ちゃんと言い条、そんなに「悦ちゃん」の話ではない。部分的に利用した感じ。

しかし今回のドラマはドラマで、とても面白かったですよ。

まずキャスティングの勝利かな。

ユースケ・サンタマリアはハマりましたねえ。オテガラです。自然体。
今回は副題にあるように、パパが主役なのでユースケがやって大正解。
いい加減さが過剰にならず、ちょっと江戸っ子感あり、お姉さんがオカネモチに嫁いでいる設定も不自然ではなく、
文学を語り始めるのにも違和感なく、ちゃんと愛情深い父親にも見えて、恋愛関係も爽やか。
演技的なハードルをけっこうイロイロ乗り越えてますよね。

門脇麦もまあいい娘さんになって……と思った。お前は近所のオバさんか。
わたしは「ブラック・プレジデント」と「お迎えデス。」しか彼女を見てないわけだが、
特異な役を出来る演技力の確かな女優さんという期待を持っている。
出来ればこういう人にはあんまり普通の役をさせないで欲しい気もしていたのだが、
普通の役を普通じゃなくやれる人だった。末が楽しみ。

特筆すべきは石田ニコルなる人でしょうね。
演技者としては、27歳にしてそれほどのキャリアは持ってないようだが、今回の特異な役柄を好演。
好演というより怪演。いや、怪演まではいかんか。巧演。見てて面白かったです。
ちゃんとご令嬢に見える。ちゃんとご令嬢に見えてなおかつ笑えるというのは両立が難しいと思う。
適材適所。

意外なところで、細野夢月が大変愛すべきキャラクターになっていた。主に脚本的に。
最初のうち、むしろ碌さんの味方?口では厳しく言ってるけど、実は陰で支えてる?とか勘違いをしてしまった。
単に天然自然にふるまっているだけだった。岡本健一なる人の可愛げのオテガラ。

西村まさ彦がわたしの知らないうちに改名していた。
最初しばらくは西村まさ彦に見えなくて、誰だろうと思っていた。
いつもの西村節じゃないことが意外だった。普段もう少しキャラ強くやるでしょう。
結果的に“いつもの”になって、それが求められてることなんだからいいんだけど意外性はない、みたいな。
今回は一味違う感じ。

堀内敬子さんは安定の。
紺野美沙子さんはさすがのフィット感。

安藤玉恵は、……正直あの歌声でウグイス芸者ってのは無理がないか(^^;)。
歌わせない方が良かったのではないか……。
しかし役柄としてはいい役でした。役柄的にはあんまり報われないんだけどね。
多分本気で碌さんに惚れているのに、碌さんの方では真面目に向き合ってないし、便利に使っている感じ。
春奴、気風もいいし、相当尽くしてるのになあ。愛しても愛されるとは限らないのが人生である。
最後の方、別な人に惚れられて幸せになるのでヨカッタ。

あ、忘れちゃいけない、悦ちゃんの子役は平尾菜々花なる人。
可愛かったし、“ディートリッヒ調の声”と言われて(ドラマでは言われてないけど)違和感ないし、
上手すぎる子役の嫌味もなかったし、良かったと思います。おかっぱ頭が似合ってたね。
ユースケに抱きつくところが何シーンかあったけど、いかにも子供の体当たりという感じがして良かった。
思い切りぶつかっていってこそ、受け止める父親の頼りがいが出るんだよ。

ナレーターは片岡愛之助。
これが意外に噺家っぽい口調がハマっていて良かったんだわ。

これさー、朝ドラ向きだよね?
今回はほんとに部分的に利用しただけだが、原作はもっと長くて山あり谷ありのストーリーで、
悦ちゃんももっと活躍するので(まあ正直断片的にしか内容を覚えてないけれども)、勿体ないなと思っていた。
朝ドラくらいたっぷり尺を取ってやればいい素材なのに……

しかし実は、朝ドラの第一回作品の原作は獅子文六の「娘と私」という小説?エッセイ?で、
「悦ちゃん」とは同じ実体験に基づく作品らしい。それでは朝ドラ化はないわなあ。

原作をうまく換骨奪胎して、パパの話にしている。そういう方向もありだろう。
よく考えれば碌さんはけっこういろんな美人とうまく行きそうになっていて、モテる人だよね、実際のところ。
先生もあのまま行けば交際に発展した可能性は高いし、カヲルさんにはぞっこん惚れられてるし、春奴もまた同じ。
モテモテじゃないですか。
しかし全然モテている感じがしないしみったれたキャラメル野郎なところが良かった。
エライねえ、脚本家。腕だねえ。

鏡子さんのオヤジはちょっと酒を飲み過ぎるけれども、鏡子さんの幸せをよく考えている。
そりゃ「この縁談まとめなきゃ!」と思うよね、あれだけ好条件だと。
本人もまあこれという難のないサワヤカ系の好青年。でも惚れてない人に惚れられても、
若い娘さんというものはうざったいだけなんだよね。

戦前の生活風景も面白かったな。
そうか、洋服はオーダーする時代なのね……。お手伝いさんがいて、デパートガールが花形の職業で。
碌さんの家の間取りが(漫画の)サザエさん時代を髣髴とさせる。多分同じくらいの時代設定だろう。
子供の洋服の枚数だって、今どきの子供とは段違いだろう。ほんとに何枚かを着まわしていた感じ。
あんまりセットにカネをかけずに、アニメで処理をしていることも奏功。
画面にアクセントがついた。ポップな色使いも成功。

内容からして続きは作れなかろうが、面白い、いいドラマだったと思います。
8回なのが惜しいね。もう少し長く見たかった。

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原作。

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