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◇ 冲方 丁「天地明察」

実は読む前は腰がひけていた。
ネット上で読んだ作者についての記事のせいと、ラインナップにライトノベルが多いということ。
近頃のライトノベルは信用していない。ライトノベル臭が漂う作品だったらどうしようと思っていた。

そしたら大変にいい話でした。近年になくいい話。
って、近年わたしが新刊を読んでないだけなんだけれども。
いい人たちが健気に描かれていてそこここで泣けた。地下鉄でも泣けた。

数年前に映画になっている。その映画は感心しなかったのだが、今回の小説は映画の主演の岡田准一のイメージで読んでいた。
それは大変しっくり合っていた。当て書きか?と思うくらい。
あの頼りなさは原作のキャラクターを忠実に映していたんだなあ。

ただ話は、主人公が挫折して凹んで、笑って泣いて、謝っての繰り返しだから少々飽きるけどね。
これは映画の難点かと思っていたが、違った。小説でも同じ難点があった。
読んでる間は気にならないが、読み終わった時点で後ろを振り返ると難を感じる。

難を感じるといえば、映画ではなんだか大変無理めな指揮系統だった気がする水戸光圀、保科正之あたりのことも、
詳しく書かずにすらすら話が進んじゃって……
こういう地味な話をわざわざ発掘して小説にしようってんだから、それなりに話は調べたのであろうとは思うが、
この辺りが史実じゃないような感触。しかしWikiを見ると、更に独断で行なっていたように書いてあるので……
暦なんてもの、民間人のキャンペーンで変わるかなあ、という気がする。

この人はそもそもの職業は碁打ちで、興味の方向は算術と天文で、神道もやって、という風に
あちこち興味の対象が分裂しているというのが作者の創作意欲を掻き立てたそもそもの要因だろうけど、
ただ小説としては、もっと改暦事業についてページを割くべきではないだろうか。
改暦事業が4分の1程度の分量しかないからさ。
その前までの生涯をあのペースで書くんなら、改暦事業部分ももう少し分量が欲しいよね。

まあ気に入らない部分はその二つくらいで、読んでいる間は快適に読みました。
春海の性格設定もいいし(ちょっと頼りないけど)、周囲の人々も気持ちよく、しかし印象的に書いてる。
出て来る人みんな印象深いな。保科正之、水戸光圀、村瀬さん、建部さん、伊藤さん。義兄さんも道策も。
女性キャラの“こと”と“えん”は若干紋切り型に傾いている気もするが。
こんな人々と春海の歩みを、じっくり読めて吉。

ただ、文章に“けっこう”と使うのは気になったな。この小説の地の部分で使うには少々口語的にすぎる単語だと思った。
まあ佐藤賢一と違って、1ページに疑問点が3つも4つもというわけではないので、読むのに支障はなかったが。

面白い小説でした。
幸せな系統の話を読みたい人にはお薦め。

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