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◇ 恩田陸「中庭の出来事」

まったく恩田陸ったらね!またこんな話を書くんだからね!
舞台の話。舞台の話だけならいいが、オーディションと舞台と劇中劇と回想と現実が交錯する。
しかもそれぞれバージョンが2つか3つずつある。もう恐ろしいばかりにわやくちゃな話ですよ。

……でもそのわやくちゃな、複雑でわけのわからん話を、わけのわからんままどんどん読み進ませてしまうのは。
恩田陸の力量ですねえ。なんでしょうねえ、この人。なんでこんな腕力があるんでしょうねえ。
お前は力士か!と、……小説家に対するツッコミとは思えないツッコミをしたい。

この人絶対演劇部育ちだと思ったのに、wikiによるとブラバンらしい。うーん。そうかねえ。
まあ何冊か舞台物というか役者物を書いてるし、相当に舞台は見てるんだろうな。
……いや、それはいいけど今回はやりすぎ。

わたしは読み終わったあとも、どんな話だったかサッパリわかりませんよ。
冒頭から、ほぼそのままの場面がほんの少し角度を変えて何度も語られる。
平行世界を並べるのは恩田陸お得意の手法で、またこれかと思ったけれども今回はまた細かいね。
そして単なる平行世界じゃなく、人をまったく入れ替えてシチュエーションは同じのを利用したりするんだから、
原稿料泥棒だね。

それにまだ、女優3人と脚本家、その奥さんだけならまだしも、そこに刑事系の男たち(刑事系ってのもなんだかわからんが)や
霧の中の男たちも絡むと複雑さ倍増。わからん。話がさっぱりわからん。

しかしそれでも。ページターナーってのは一体どういうことなんでしょうかねえ。
最後の最後で明瞭に霧が晴れ、構築物がすっきりと姿を現す。そういうのを期待して読み進めていくというのは
たしかにそうなんだが、最後まで読んでもそういうカタルシスは……まあある程度そういうことだったのね、という
納得は出来るが、そんなにすっきりはしない。こういうことだったんですよと言われても、
何しろそれまでが複雑怪奇な作りなので、はあ……そうですか……みたいな。

例えていえば、目隠しをされたまま京都駅からまあどこでもいいけど清水寺へ連れてこられて、
その間散々、二条城とか南禅寺とか金閣寺嵐山鞍馬寺を連れまわされて、
最後に目隠しを外され、「実は目的地は清水寺でしたー!!」とか言われたような。

いや……目隠ししているし、二条城だろうが金閣寺だろうが、どこに行こうが同じですやん。

ストーリーとしてはこう言いたい。しかし恩田陸の小説は目隠しして連れまわされている間も退屈させないから、
結果がそうでも不満は持てないんだよなー。むしろ目隠しして移動している部分が真骨頂だからね。
これは他の作家と大変に違う点。
もちろん構成が見事な、ストーリーで読ませる作家の他に、キャラクターで読ませる人もいれば描写が魅力の人もいる。
恩田陸は――このわけのわからなさが売りとは言いたくない。やっぱり売りはサスペンスということになるんでしょうな。

ジャンルとしてのサスペンスではなくて。いや、ジャンルとしてもサスペンスでいいんだけど、
その宙づり感。そこを的確についてきて、嫌でも読者に読ませてしまう。
この宙つられ感が――癖になる。
いや、わたしは話がかっちりした、わけのわかる小説の方が好きだよ。……しかし恩田陸は読み続けている。
好きじゃないのに。まったくもう。術中にはまっている。

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