著者は住宅をメインに作る建築家。
この人、文章が巧くてね。数年前まで出版した分は多分ほぼ読んでるかな。
半分以上が建築紹介の本で、建築家だから当然といえば当然だが、間取り図なんかすごく味がある。
手書き文字もだいぶ出てくるし、語り口も柔らかくて、ほっとするね。
今回のこの本は、建築紹介のなかでも、特に色々な建築家の自邸を紹介するもの。
自邸ならばクライアントとの意見の相違はないわけだし(奥さんの意見との相違はあるかもしれないが……)
その建築家のエッセンスが濃厚に出ているであろう、という見通し。
正当な見通しである。
とても柔らかく書いてるんだけど、それぞれの建築への中村好文のキモチはうっすら伝わってくるね。
中村好文はさ。建築を理念でとらえる人じゃないからさ。
住宅は住んでこそ。この本の中にも、
建築家の設計した住宅には、おうおうにして「住まわされている」気の毒な人たちや、
「住みあぐねている」不幸な家族がいるものですが、
という文章がある。いるだろうと思う。建築は使い勝手が第一、ということを考えていない建築家が。
そういう意味ではわたしは宮城県図書館が建築的にすご~~~~~~~くキライなんだけれども、
あれなんかは「しょうがないから使わされている」不幸な建築です。しかも税金で建てて。
だから原広司は大嫌い。
前に別な建築の本を読んで、「ナベのフタの置き場のない設計」のエピソードを知った。
この本でわかったのだが、あのエピソードの主は山本理顕という建築家だそうです。
あれは読んで「こんなんだからこの世にメーワクな建築が存在するのだ!!」と怒髪天を衝いた。
建築の本質は、とか言うのは使い勝手が良ければ全然問題はない。しかし使い勝手を無視した建築はゴミに等しい。
オブジェじゃないんだからさ。
まあ山本理顕なる人の建築知らんけれどもね。使い勝手を体感しようにもなかなか出来そうもないけどね。
使い勝手的に気に入ってるのは、伊藤豊雄の「仙台メディアテーク」。
建った時は「またこんなこじゃれたガラスの箱を作りおって……」とかなり冷たく見ていたのだが、
実際に行くと、なんだか妙に魅力ある建物。
その後長い年月の間、ずいぶん利用する折があった。決して動線なんかもいいとはいえず、
不満もいくつかはすぐ述べられるけれども、なんだか妙にいいカンジなんです。
使い勝手というほど使い込んだわけではないけど、帯広の十勝温泉北海道ホテルという建築は印象に残る。
ツアー旅行で一泊しただけだが。象設計集団。
ここは欠点も多々ありつつ、デザインにすごく可愛げがあった。遊び心と。
ただやっぱりディープな使い方をしたわけじゃないから、本格的に評価は出来ないと思うけど。
デザインに好感を持つというのと使い勝手は全く別のものだもの。
通りすがりに見ただけだったら、宮城県図書館もワルくないじゃない、と思うかもしれないんだよね。
……もうすっかり、好きな建築・嫌いな建築の話になっている。
本の話に戻れば、読みながら、「この建物のこんな部分を取り入れてもらおう」とか
思ってた。わたしは6億当たったら、中村好文に住宅を建ててもらうのが夢なんです。
まあいくら自著とは言え、他人の建築のここが欲しい、とか言われたら中村好文もクサるかもしれないが。
山本理顕が「中村さんの建築も見てみたい」と言ったことに対して、
「どうぞどうぞ!ナベのフタの置き場だらけの建築ですが……」と返したのは、さてこそ、という思い。
![]() 建築家のすまいぶり [ 中村好文 ]
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