たしか前に読んで、購入したのを積読にして、風邪をしばらくぶりにひいたので読んだけれども、
久々に読んで実にいいですねえ、梨木香歩。
といっても全部が全部薦められるとは言えない。
この人のデビュー作は「西の魔女が死んだ」で、個人的には思い入れがある作品だが、
その時点ではまだ海のものとも山のものともつかなかった。
その後出版された4作くらいは、なんていうのかな、見どころは数々あれどもそんなに好きではない、というか。
ファンタジーの不思議さの、その味付けがあんまり好みじゃなかったんだよね。
例えていえばトムヤムクン的な。……サッパリたとえになっていないけれど、ああいう複雑な味は好きじゃないのだ。
が、「家守綺譚」「村田エフェンディ滞土録」「沼地のある森を抜けて」は好きでしたね。
不思議さは相変わらず独自のものがあるんだけど、それが醤油味なので受け入れやすくなっている。
シンプルにいうと和風の話。
特にこの作品は、夏目漱石の「猫」を彷彿とさせる、飄々・うっすらとユーモラスで、
いいなあ、こういう文体。
植物と動物と妖怪と怪異がごく自然な存在として語られる。
なにしろ主人公の語り口がおっとりしてるから、コワイとか気味が悪いとか、どうしてもそういう方向にいかない。
ああ、そうなのねーと読んでいく。
若い女の子を描かれるよりも、この人の明治期の青年を主人公にした話が好きだ。
「村田エフェンディ滞土録」とかね。「家守綺譚」にも村田さんがほんのちょっと出てくる。
出てくるというか、語られる。お友達なんですよ。
文庫版の表紙が神坂雪佳「雪中竹」という日本画らしいが、これが大変にいい。
色合いは若干寂しげだけれど、写実的な雀が可愛くてねえ。新潮社装丁室、お手柄。
ちなみに本文にある、
庭には南天が多い。故に冬場は鳥が多いのも解せるが、鵯ほどの大きさならまだしも、
南天は雀の飲み下すにはちと命がけの代物ではないか。
という文章は、なんということもないけどユーモラスでお気に入り。
なお、解説は書評家の吉田伸子が書いている。この解説も我が意を得たりというものだった。
そんなに難しいことを書いているわけではないのだが――解説で難しいことを書いて欲しいとは思わないが――
この作品が好きだ、という気持ちが伝わってくる。
彼女が抜き出した、狸の恩返しのところも「私の精神を養わない」のところも、同感。
わたしとしては「ゴローがおおっ、という顔をしてお愛想に尻尾を振って見せた」ところも好き。
そんなことを言えば好きなところは何ヶ所もある。一々挙げていては大変なほど。
それからついでに、裏表紙にあるおそらくは新潮社の編集者が書くものだろう内容紹介は、
正直内容紹介としては初見の人に訴えかけるとは全く思えないが(=つまり内容紹介としては出来が悪いが)
読んだ後に読むと、これもまた「この作品が好きだ」という気持ちが伝わってくる。
愛すべき本。愛せる本。愛される作品は幸せですよ。
![]() 家守綺譚 [ 梨木香歩 ]
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この作家のその後の作品はまだ読んでないので、読むのが楽しみだ。2008年以降の分を今後読む。
課題リストの順番が多分1年後くらいに回ってくるので。
「家守綺譚」の続編である「冬虫夏草」というのもあるらしい。楽しみ楽しみ。
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