名作。
ところで名作と傑作はどっちが上?方向が違うは違うけど、どっちかというと名作だろうな。
これは名作認定。でも世間的評価は分かれるそうな……。
ネット上で他の人の感想を見てみたけど、最初の部分がとっつきにくいと書いてる人がけっこう多かった。
うーん、そうか、気づかなかった。わたしはこういうしつこいコミカル文体、好きだからね。
相当に違いはあれども万城目学とか森見登美彦とか、その辺をもっとシツコクしたような文体か。
こってり系なので、腰を据えて読み始めて吉。腰を据えてといっても一気読みする必要はさらさらなく、
20分くらいずつ小分けに読んでも楽しめる。
いや、わたしは相当に気に入りましたよ。
1ページ目の10行目の「存外器用に階段を下ってみせて」のところで、
こういう表現をする人はきっとわたしの気に入るに違いないという確信が生まれた。
雰囲気としては明治期の日本文学作品のコミカル・パロディというイメージかなー。
森鴎外の「渋江抽斎」を思い出していた。「渋江抽斎」はひたすら退屈だったけど、これは面白いです。笑える。
ファンタジー。ですね、ある意味。(マジック・リアリズムはなんとなく違うと思う。)
タイトルにはとらわれない方が吉。これはあくまでつかみで、小ネタ……中ネタの域を出ないですから。
話としては語り手の博が息子の恵太郎に、博の祖父である與次郎を主に4代前からの家族の年代記を
語っていく話。與次郎が明治期の人なので、舞台背景的に明治期文学を彷彿とさせるのだろう。
なんちゅうかね。その辺がいいんだよね。
決して文学好きではなく、いわゆる文学作品もそうは読んでないが、夏目漱石は好きだし、
明治期の名作は安心感がある。やっぱり現代の小説は明治期から始まってるしさ。
最初に文体に感心して、その次に組み立てに感心した。
――ある種のネタバレですけど、この作品は最初は日本文学をコミカルにした形で始まり。
中盤で戦争体験をマジメに描く。――この作者、戦争については実体験が何一つない世代。
この辺の年代が戦争を書かなければならない世代になったんだなあ、と感慨深かった。
今まで戦争について書いていた人たちは実際に行った人、経験した人、その後は経験した人から
直接話を聞けた人。だが1974年生まれの小田雅久仁は直接話をたっぷり聞けた立場ではないだろう。
戦争については読むことでしか知識を得られない世代だ。
今回の戦争部分は、多分読む人が読めばだいぶ甘いんだろうけど、知らない時代を努力して書いている。
前半のコミカル感から一転して戦争の話で、その展開の仕方がうまいと思った。
そこで終わるのかと思いきや、年代記の最近部も書いている。つまり語り手について。
最終盤にこのパートが始まった時は蛇足じゃないかなーと思ったのだが、
読み進んでいくうちにあってもいいかと思うようになった。
家族の年代記という意味ではこのパートがないとしょうがないもんね。
最後は前半部の雰囲気に戻って終わります。でもうっすらコワイ余韻が漂う。いい終わり方。
文体が受け付けない、という人以外は読んで損はない本だよ。
特にユーモア好きの人にお薦め。盛られた豆知識でもけっこう楽しめます。
![]() 本にだって雄と雌があります [ 小田雅久仁 ] |
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