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◇ 佐藤多佳子「聖夜」

久々の佐藤多佳子。課題図書リストで1度ざっと読み、それから再度順番が来て読んでるから、
懐かしい気がする。

話はわりと地味で、終始、一男子高校生の葛藤の内容。
他の人と浮気をして家を出て行ったお母さんへの葛藤、
牧師であるお父さんと本音でぶつかれない葛藤、
音楽が好きで、オルガン弾きの腕は相当なもんなのに、自分に満足出来ない葛藤。
自分のキリスト教に対してのスタンスが不安定な葛藤。

この辺が主要な内容で、そこにオルガン弾きの部活の部員たちがちらっと、先生がちらっと出てくる。
イベントも若干あるが、基本的には葛藤をずっと書き連ねるタイプの話。

とは言っても、そこまで憂鬱な内容ではない。爽やかとまでは言えないだろうが。
淡々とした。静かな話。

音楽の話が大きな割合を占める。佐藤多佳子は自分ではオルガンを弾かないんだろうに、
相当引きつけて書けているよね。さすが作家ということか。
パイプオルガンの弾き方で、鍵盤の感触が「しっかり弾き、すっきり離さないと、音がきれいに鳴らない」そうで、
わかるようなわからないような気がしてもどかしい。
こういう表現は、取材で直接的に得るのかね?実際に弾く人しかこういう言葉には出来ないんじゃないかと思うが。
それとも作家として自分の中から出てくるものなのか。そうだったらすごいと思う。

これは連作の一つらしい。
タイトルが「聖夜」だが、副題が「School and Music」とあり、
同じ副題の作品があと4つ(長さは長短さまざま)あるそうだ。
青春物というには主人公の自分対する視点が強い(青春物というともっと友達とかの他者の比率が高い気がする)
作品だが、落ち着いた爽やかさのある話。

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