うすいうすいと内心軽んじている万城目学のエッセイだが(好きだけれども)、
今回も薄さの中にふと紛れている部分に啓蒙されたりした。
今回はなんといっても東京電力の株主総会の参加体験。
実は万城目学は、1000万円近くを費やして東京電力の株式を買った。財テクとして。
そしてその数か月後、東日本大震災が起こった。
その株を売りに出し、700万円超の損失を出した。
――その経緯自体もある程度詳しく書いており、それも興味深いが、
株を売ってから参加した東京電力の株主総会を見た万城目学の印象が大変に興味深い。
その面白さは、わたしが書いても全くつまらないものになるので本文を読んで欲しいが、
この人、実はジャーナリスティックな才能があるんじゃないのかね。
ジャーナリスティックじゃないな。作家として、やはり物を見る目に独自のものがあり、
それを何とかかんとか表現する術を持っている。
……独自のもの、というのかなあ。むしろ素直な、子供のような目というべきなのかなあ。
ただ周りがそれほど子供の目を持てないなかで、子供のように素直に見るというのは独自といっていいと思うが。
わたしが要約してもさっぱりいい所が伝わらないが、この株主総会のパートで一番印象に残ったのは、
「会長だけが戦っていた」
という万城目学の意見。ニュースも新聞も全く見ないわたしは、そもそも東京電力の会長の顔も
どんな人かも全く知らないが、かなり憎まれ役のようですね。
その人に対する、(いろんな感情は交錯するけれども)敵ながら大物、という口吻は印象深い。
この人を長とする会社の株で、実際本人は700万という大金を損しているわけですから。
まあちょっと今一つ伝えられないところだけれども。実際に読んで下さい。
他に印象深かったのは「生得の」「ナチュラルボーン」についての一篇。
自分が文章について、他人よりもほんの少しこだわりが強い。そのことに気付いていたのは
彼のアドバンテージだったかもしれない。
いや、それをポジティブにとらえられたのが彼のアドバンテージだろう。
全く同じことでも、捉え方一つでそれが鎖にもなる。
ギリシャの青についての言及も良かった。
この人も旅行が好きで、けっこうあちこちを回っている様子だが、ギリシャの海に大変感銘を受けたそうだ。
「この青は東アジアには存在しない。なのでそれを表現する日本語もない」
そこまで感じられたその感受性がめでたい。
わたしも見たけれど、ギリシャの海は凄い青とまでしか思わなかった。その青に対する衝撃度が全く違う。
変な言い方だが、結局のところ、どこまで感じられるか、感じたもん勝ちなんだよ。
それが誤解や誤りだろうが。いかに下らないことであろうが。
心が動く。それを距離の直接的な比喩として、一生のうちに心をどこまで遠くまで旅をさせられるか。
エッセイ、もう少し冊数を出して欲しいけどな。正直小説よりも好きだ。といえば、万城目学は不本意だろうが。
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