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◇ イーディス・ウォートン「エイジ・オブ・イノセンス 汚れなき情事」

アメリカ文学最短コース遍歴中。

いや、アメリカ文学もここまで来たかと感慨深い。
というのは、この話はニューヨークの社交界のあれやこれやを細かく書くタイプの話だから。
最初に読んだハックルベリィフィンや怒りの葡萄なんかから、ようやく社交界をテーマにするようになかったか、と。
人間は本性的に格付けをして生きていくもんで、メイフワラー号に乗って来た人々も、
その当時から確実に序列はあったことと思うが、アメリカもこの頃になるとだいぶ洗練されてきましたね。

とはいえその洗練は、とてもとても不自由な“洗練”で。
いわゆる社交界の不文律でがんじがらめになった世界。作者はその部分を相当に労力を払って書いていて、
――読んでてアホくさいなと思うことしきり。まあ社交界じゃない、現代日本の孤立社会でも
その社会なりの不文律はあるんだから五十歩百歩だけれども。

そんな中で出会った男女。
男の方はニューランド(これファーストネーム?)、女の方はエレンで、
ニューランドはそのニューヨークの社交界にどっぷりと浸かった若者、
エレンは元はニューヨークの社交界でそれなりに幅を利かす家の出、
欧州の貴族と結婚して何年かを欧州で過ごした結果、ニューヨーク社交界の細則に合わない存在として戻って来る。
エレンは、当時はなんとしても避けたい醜聞であった離婚をしたがっている。
ニューランドは、社交界的にも非の打ちどころのない似合いの娘(メイ)と婚約・結婚という時期。
この2人が惹かれあうという話。

……という話の筈なんだけど、そういう話だと思って読むと何だか疑問だ。
一応視点人物がニューランドなので、彼のメイや社交界についての心理描写とかはじっくり書くのだが、
一番の話のキモであろうニューランドとエレンの関係性は……なんか薄くない?
「源氏物語」で実際に寝る場面を暗転のまま処理する手法のように、
ニューランドとエレンがどのように惹かれあったのか、お互いをどう思っているのか、
そういったところが、他の部分への細かい描写と比べて全然少ない。
ええ?いきなり愛の告白?しかも双方了解済み?と驚く。

ニューランドとエレンの関係性が話としてのキモなんだろうと思っていたが、違うのかな。
作者が書きたかったのは、同時代のニューヨーク社交界の細部で、それを書くためだけの男女ってことなのかな。
読み終わって、恋愛関係部分は全く印象に残らない。ただ社交界内部での不自由さとか、
それに見事に処して行くメイの生き方とか、そういうことしか。
ここら辺はまあまあ面白いです。やっぱり恋愛小説じゃなくて風俗小説か。

終りは多少安易ですけどね。とってつけたような大団円というにやあらん。

エイジ・オブ・イノセンス―汚れなき情事 (新潮文庫)
イーディス ウォートン
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そして、内容は全然そんなことはないのに、副題が“汚れなき情事”で、映画になった時の
キスシーンなんかが文庫の表紙になっているものだから、
見た感じがとてもハーレクイン風なんですよ。地下鉄が主な読書時間のわたしとしてはハズカシイ。
全然そういう話じゃないですから!と(誰も気にしてないだろうが)言いたかった。

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