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< 百日紅 Miss HOKUSAI >

親父の雅号にMissをつけてもしょうがないのではないかと文句をつけたいところだが、
サブタイトルを北斎の娘、とかつけても全く面白くないし、海外向けにアニメを持っていった時に
わかりやすそうだから不問に付す。

面白かったですよ。予想していったものの予想通りの内容で、
それで面白かったので、けっこういい出来ということなんじゃないでしょうか。

声優が豪華でしたねえ。見る前は杏しか知らなかったので、エンドロールを見て、
「え、松重豊?え、濱田岳?あらちょっと、久々の筒井道隆?」とか何だか嬉しくなって、
買うのを迷っていたパンフレットを買ってしまった。850円でちょいと高め。

杏は、役者としての作品を「フィレンツェ・ラビリンス」「おかえり、はやぶさ」と
こないだの「オリエント急行殺人事件」しか見てない。その中でわたしの判定はですね……。
まあちょっと大根系ですね。
この人、人間としては真面目でいい人だと思われるので好きなのだが、演技に感心したことはない。
まあどれも台本がイマイチという作品ではあったけど。

なので、今回の声優もどうだろうなあ、と思っていた。
冒頭は少しツラかったかな。「俺」とか「ちったあ」「やっつくれ」の江戸言葉が、
現代日本の娘さんだけに全くハマってない。ハマるのも難しかろうが。
でも後半はあまり気にならずに聞けるようになっていたので、全体的にはまあまあだったのではないでしょうか。

他の皆さんは何しろ終わるまで全く気付かなかったので、全部正解。
濱田岳なんて、実際の風貌や話し方が特異でキャラクターが限定される俳優だと思っているが(好きだけど)
今回は全然気づかなかった。アニメで、やっぱり声が独立して聞こえるようではダメなんですよね。
わたしは基本的にはアニメは声優で聴きたい派。

ちょっとしか出てこないが、さやごろもの造型は良かった。かっこええなあ。
まず佇まいも良かったのでキャラクターデザインもお手柄だが、
麻生久美子の声も、後で考えてみれば大変にかっこよさに寄与していたと思う。
麻生久美子好きなんだぁー。

だいたいこういう話になるだろうと思って、まさにそういう話だった。
江戸風俗を見に行ったので満足。むしろもっとこってり知識をひけらかしてくれても良かったんだよと思うくらい。
多分、杉浦日向子さんが生きていて、この映画に関わったとしたら、もっと風俗を詳しく書いてくれたんだろうな。
まあ杉浦日向子は読んだことがないんですけど。

――と、ここでわたしが大変残念に思っている話をするが、
昨今の「風俗」は第一義として性風俗という意味になってしまっているんですかね?
第一義だけならまだしも、そういう意味としてしか知らない人も増えてしまっているんですかね?

言葉が変わって行くのは当然だけれども、そうすると例えば
「フェルメールは17世紀オランダの画家で主に風俗画を描いた」という文章は、
フェルメールはエッチな絵を描いた画家だと読まれてしまうんですかね?
そうだとしたら嘆かわしい。

(しかし余談の余談をすると、フェルメールのwikiを開くと、まるで代表作のように右上に掲げられてるのが
「取り持ち女」で、“ああ、エッチな絵”と納得されてしまいそうなのがツラい。
「取り持ち女」はフェルメールの中でもかなりマイナーな方でしょう。ここはぜひ「牛乳を注ぐ女」に
差し替えて欲しいところだ。)

――閑話休題。
両国橋の上で、物売りが行きかうシーン、ここは江戸の頃の物売りの掛け声をこれでもかというほど
聞かせてくれるところだろうと思ったが、1つ2つあったくらいであとは無言。
まああんまり知識をひけらかすのはあざといので、多分今くらいの方が上品だろうけど、
いや、せっかく見るんだから“江戸世界の映画”で良かった。

それだからこそ、今回のようにストーリーにメリハリがなくてもいいわけでね。
この映画を見て「盛り上がりに欠ける」という感想もあるようだが、そもそもストーリーを見せる映画じゃないんだよね。
白飯に対して「味付けが薄すぎる」と文句をいうようなもんで。
主役は江戸の空気感。ここを愉しんで欲しい。

お栄はさかんに北斎を弱虫呼ばわりするが、ガタイからも表情からも弱虫っぽい部分があまり感じられなかった。
そこまでわかりやすくしなくても良いのかもしれないが、一瞬くらいは素直な気弱な表情を見たかったかな。
顔を触られるところの表情は良かったですけども。
ヘタレなわたしは弱虫な北斎に大変親近感を感じる。

だがしかし、あの父母の子で、なんでお栄さんとお猶ちゃんがあんなパッチリ目の可愛い子なのか……。
隔世遺伝ですか?
お猶ちゃんの雪遊びのシーンは良かったね。地元の少年の出現は唐突だったが。

初五郎さんが一緒に歩いていた人は、髪を結ってなくて洗い髪?のままなんですが、これはアリなのかな。
これで芝居見物というのはイメージ違うなー。例えていえば、えーとえーと、ジャージで芝居見物のような。
やっぱりちょっと着飾っていくもんと違う?

陰間が男も女も相手にするとは知らなかった。そんなに深く考えたことはなかったけど(^_^;)、
なんとなく、人によってどっちか専門かと思っていた。
吉原と違って、玄関先で客がかちあうようだとマズくなかったですかね。
吉弥が、超脇役なのにパンフレットの表紙にけっこうデカイ顔で載っていて。
いい役でしたよね。可愛げのある。

見て良かったので、上映2週間で、平日とはいえハコにわたしを含めて3人という状況はいささかカナシイ。
でもアニメで、しかも子供向けではないまったくないアニメで、北斎……
まあ誰もが気を惹かれる映画になるとは言えないでしょうな。
外国に持っていって、映画祭かなんかでやると評判良さそう。
ただ、それにしては北斎の絵のすごさというのは物足りないか。

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