いやー、予想外のつまらなさ。
設定と役者を見て、面白さの予想ははるかに上だったのだが。
期待値が高いというのはいつでも危険だが、しかしこの設定と役者でこれほどつまらないとはどうしたことか。
腹が立つほどではなかった。
でも途中で寝ようかな、と思ったつまらなさではあった。
原作は未読……というよりそもそも読もうと思ってないが、原作だと別な形の良さがあるのかな?
映画だと、どこを狙っているのか、そもそも本当に言いたいことは何なのか、というのがサッパリ出てませんよね。
一番気になるのは、現代パートと王朝パートがほぼかみ合ってないこと。
いや、王の愛人が住んでいたという歴史を売りにするホテルというのはいいんだけど、
だからといってその理由だけで王朝パートにあんなに尺を割かれてもねえ。
映画として話に組み合わされてなければ全く意味がないじゃないですか。
例えるとしたらばだ――
大阪城敷地内に、経営に行き詰ったお土産屋さん(食べ物屋でも何でもいいが)があるとして、
その立て直しの話をメインにしていると思いねぇ。
そこに唐突に大阪城落城の話とかがミュージカル仕立てで入って来たら変でしょ?
いくら地縁があるからといって、なんでわざわざコスチューム物を導入しなければならんのかと思うし、
そんなのに尺を割くくらいなら、本筋の立て直しの話をもっと掘り下げんかい!といいたくなるでしょ?
立て直しと大阪城築城時の夢と希望を重ね合わせる、秀吉と主人公を同一視する、とかいうのなら
少しは意味があるかと思うが、今回のこの映画ではそういう重なり方はしない。
たしかに水谷豊は王朝パートでもルイ14世の料理番(ルイ14世ではないのか?)の役もしているが、
料理番と現代の作家の役がリンクしている部分もないんだよなあ……。
まあ原作でも王朝パートはいささか不可思議な力の入れ具合で書かれているようで、
わたしは浅田次郎が、書きたいことをつい節操なく書いてしまったと推論する。
何しろ読んでないので、原作では何らかの効果を上げてる可能性もあるが、
映画では「余計な部分に時間と金をつぎ込んで話を散漫にしてしまった」ということにしかなっていない。
――でも映画全体に対するものではなく、単に王朝パートのミュージカル部分だけ独立して考えると、
ミュージカル好きのわたしなんかはけっこう楽しかったですけどね。
プティ・ルイの子役の子が可愛くて上手かった。近所のガキ大将という設定の子役の声が大変良かった。
メロディも良かったし。セットの映画らしからぬチープぶり(むしろ舞台の大道具だね)も好き。
が、その王朝パート部分だけで見ても、話はやはり納得出来ず……。
プティ・ルイが、別に強制されたわけでもなく、母の反対を押し切ってまでフランスのために父の元に行く、
という決断をしたのに、近所の人が引き留めただけで「フランスの太陽ではなくご近所の月になる!」と
前言を撤回するのは、……これはダメダメではないのでしょうか。
誰か疑問に感じなかったのか関係者は。
せっかく石丸幹二を持って来ているのに、歌っているのは子役と近所の人のモブたちだけだっていうのも
モッタイナイ気もするなあ。
2番目に気になるのは設定の破綻。
10日間150万円の超高級ツアーと10日間30万円の格安ツアー(10日間30万なら普通にいいツアーだが)を
企画して、王妃の館という高級ホテルの部屋を昼夜で使い分けるようにダブルブッキング――という話なら、
2夜目か3夜目の「宿泊は屋根裏部屋に」という状態でもう破綻してますよね。
そこで面白みがなくなる。ダブルブッキングに関係してのドタバタをもっとがんばって書くべきではないのか。
3番目に気になるのは、群像劇の筈なのに、その関連性がつまらないこと。
水谷豊が作家で、同じ部屋にダブルブッキングするのは彼に作品を書いてもらおうとパリまで追って来た編集者、とか、
元詐欺師の部屋に泊まっているのは、彼の娘(だよね?そのエピソード全く描かれてないけど)とかは
もっと動かそうと思えばたっぷり動かせる部分なのに、出会う前も後もハラハラさせるエピソードがない。
唯一面白かったのは上司と部下の関係だが、驚かせてそれだけだもんね。
わたしはてっきり緒形直人と安達祐美は本物の親子設定だと思っていたのだが……
「親子なの!?」「そぉよ~、あたしパパって呼んでたでしょ?」「パパって……」「ほんとのパパだったのか……」
的な会話が絶対あると思っていたのに、単に普通の年が離れた愛人関係だったようだ。
あ、プロポーズするっていってるんだから愛人関係ではなく、普通に恋人同士か。
王妃の館なんて言ってるわりには、水谷豊の部屋は別として、ロビーや廊下なんかしょぼかったなあ。
あれでは1~2万円で泊まれるプチホテルである。150万だしてあれではあかんやろ。
しかしまあいいところもあってですね……
一番は水谷豊のファッションですかね。よくもまあ着こなした。
衣装は全体的にみな濃かったな。
クレヨンさんと近藤誠のキャラクターは良かった。女装者と堅物すぎる警察官の役。役者は中村倫也と青木崇高。
まあパリのロケは良かった。ルーブルの撮影なんてどんだけかかったんだか……
しかしこの映画でルーブル貸切なんて、残念ながら宝の持ち腐れ。
今後見に行く人は、期待せずに見ることをお勧めする。
面白くないだろうと思って見るとまあまあ面白い、というレベルだから。
こんなの、三谷幸喜なんかが舌なめずりして作りそうな設定だなあ。三谷幸喜に作らせてみたかった。
監督は、わたしの好きな「探偵はBARにいる」シリーズを作った人だが、今回は残念。
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