久々にがっつり面白い。十返舎一九の伝記小説。いや、伝記小説という言葉はないのか?
でも伝記で小説だよなあ。
わたしは十返舎一九、完全に大阪の町人としてイメージしていたので、
駿河のお侍として出てきた時は、えーーーーーーっ!って。
まあ作品を読んだことがあるかというとないんですけど。
でも弥次喜多はいろんなところで見てるでしょ。なのでもうすっかり読んだ気になって。
この小説がどの程度史実を反映しているか、そもそも十返舎一九の史実を知らないのでわからないが、
何しろ知らないことなので、全部へーっと思いながら読んだ。なのであんまりフィクションだと困る……
2回の入り婿。しかも裕福な商家へ。特に1度目の入り婿なんて、うっすら惚れてた相手が知らない間に結婚して
後家になって、この後家を「貰ってやって下さらんか」と父が頼んで入り婿。という完璧な玉の輿だから、
出来れば末永く添い遂げて欲しかったのだが。
だってこの奥さんも、頭が良くて可愛くて、なんかとってもいい造型。
こんな人を不幸にしちゃあかん!と思う。思い入れられる。
でも与七郎(=一九)も、悪い人間ではないんだけど、結局別れてしまうんだよね。
この与七郎のヘタレぶりに……いたく身につまされた。
わが身を見ているようだった。全てを振り捨てて旅に出たいと願う。ふわふわな人生。
若い頃のことをメインに書いており、「東海道中膝栗毛」を書いた頃のことはもうエピローグに含まれる。
一九のことを書いているんだけど、なんかもっと普遍性がある気がするね。
いい意味で、これは主人公が一九じゃなくても成立する話。ヘタレな男の前半生として。
久々に、早く続きが読みたい!と思った作品だった。家では本を読みながら食事をするということは
有り得ないが、そういう誘惑を感じた本。珍しい。
わたしは松井今朝子という人、今回読むまで一度も目にしたことがありませんでした……。
今回読んで、面白かったので検索をしてみたが、けっこういろいろ書いている人なんですねえ。
2007年の直木賞だそうだ。まああんまり直木賞とか芥川賞に興味はないけれども。
それにしても盲点感がある。何しろ本作が面白かったからね。
ツブそう。と決めてリストアップした。エッセイ、小説とりまぜて30冊くらいなのかな。
歌舞伎がそもそもの専門らしく、時代小説も書いており、しかも時代ミステリーも、という
広い芸風の人のようです。今回で激しくハードルが上がっているので、
今後も同じくらい面白かったら嬉しいんだけどなあ。期待期待。南無南無。
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