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◆ 生誕200年ミレー展 ――愛しきものたちへのまなざし――

12月14日まで宮城県美術館で開催中。

ミレーは……興味あるかないかぎりぎりのラインの画家。
正直、そんなに興味はないんです。まあ有名だからとりあえず見とくか、という感覚。
「落穂拾い」「晩鐘」「種まく人」くらいしか知らんしなあ。

そういう意味では、今回新しい印象があった。
穏やかな、ただ穏やかな農民画家、というイメージしかなかったけど、けっこう画風を変えた人ですね。
特に前半の肖像画は、“あのミレー”が描いたとは全く思えない鋭さ。
だが、けっこうな数の絵に“誰それ風”を感じてしまったのはなぜだろう。
意外に器用、しかし若干悪い意味で、ということになるかな。

ただミレーの一級品が来ているかというと、多分来てない。のでこれで判断するのは酷。
酷だが、やっぱり印象としては見たものが全てですからね。それはその人の出会いとして仕方がない。

「聖ステファノの石打ち」はどことなくロマーノ。まあ画題的にも。
「アラブの語り部」はうっすらとゴヤ。
「庭園の風景」はロココの画家風で、でも「絵画の妖精」は画題と構図が超可愛い。もう少し顔が可愛ければグッズ化。
「釣り人と青い服の少女」の輪郭線はルオーの太い輪郭線。まあルオーの方が時代は後ですが。

自画像・肖像画は総じて光のコントラストがくっきりしていて、鋭い印象。
来ていた絵のほとんどが黒い衣装の人ということもあってか、レンブラントをイメージする。
レンブラントよりは線がシンプルで、見やすい感じ。この肖像画群は悪くなかった。
とりわけ、妻の家族を描いたものはみんな良かった。

「ピエール・オノ(画家の舅)」本人が若い。若すぎて舅に見えず、兄弟にしか見えない。
「アマン・オノ(画家の義理の兄弟)」女の人かと思ったほど整った顔。体は妙に直線的に描かれてるが。
「アマン・オノの肖像(パイプを持つ男)」……っていうか、この2枚同じ人ですか!?
個人名が同じだから……え~~、実際に現地見たら、この2枚が同一人物とは全く思わない。
パイプを持たない方は、かっちり七三分けの礼装の印象、パイプの方はラフでガタイも良く、顔立ちも派手。
髪の色も黒と金髪だった気がするが……。繊細な兄と磊落な弟、という印象。

そして「部屋着姿のポーリーヌ・オノ」。これが今回の白眉。

最初の奥さんだそうです。若くして亡くなったそうだ。
“シェルブールのモナリザ”と言われているそうだ。……女性の上半身像はみんなモナリザと呼んでおけばいい、
目抜き通りはみんな銀座と名づければいい、そういう風潮はけっ、という感じですが、
この絵は良かった。モナリザ云々がなければもっと気に入っただろう。

病気で蒼い顔。褐色のターバン。暗い部屋の中で浮かび上がる真っ白い服の光沢。
そんな中、柔らかなピンクの唇が花のように優しい。眼はしっかりと画家を見つめ、強い。
聖女の面影がある。ミレーにはおそらく、彼女が生涯の守護聖女になっただろうと思わせる。
美しい。ラインでも色彩でも、構図でもなくて、その眼の光が美しい絵。

ネット上の画像では良さが、……まあざっと見積もって50分の1くらいしか出てませんが。

「部屋着姿の~」の前には「青い服を着たポーリーヌ・オノ」、その前には「ポーリーヌ・V・オノの肖像」と、
3枚の妻の肖像画が並んでいるわけですが、「部屋着姿の~」が圧巻。
宮城県美術館のチラシには「青い服を着た~」が載せられていて、これはこれで印象的な絵だけれど、
どうせなら「部屋着姿の~」を使えばいいのに。
この1枚を見るために来る価値がある絵だよ。

肖像画のジャンルでは他に、
「犬を抱いた少女」が可愛い。これはベラスケスの「マルガリータ王女」の影響を受けているそうだ。
ルノワールの少女にも似通う。まあルノワールの方が時代は後ですが。
「カトリーヌ・ルメール」は2度目の妻。これは画風は大幅に変わり、本人はファム・ファタル風、
ラファエル前派かと思うが、これもミレーの方が先。ただこういう、目鼻立ちもあやふやな暗い光線の絵はどうも……。
「自画像」ではコワい人のようだ。

ふう。まあ印象が深かったのは(今まで見たことのなかったミレーの)肖像画ですね。

後半はミレーっぽい、いわゆる農民画が多い。それでも画風はけっこう細かく違う。

「子供たちに食事を与える女(ついばみ)」はとても可愛いし、完成された感じだし、いい絵だけれど……
挿絵風にきれいな、という印象も受ける。シャルダン風。あの肖像画を描いていた人がこう来るのは……
ちょっとウケ線を狙ったかなという感じ。
「雁を見上げる羊飼いの少女」もきれいだけれど挿絵風。

「落穂拾い、夏」
小品ながら、素直に良い絵。きれいだけど挿絵風でもなく。光が万遍なく回る柔らかな色彩。
揺るぎない信仰を感じさせる。

「刈り入れ」
これもなかなか良い絵。どんと立つ農夫の洗いざらしのズボンの青がいい。
タッチがゴッホ風。……それはもちろん、ゴッホが似てるんだけど。
牧草地のタッチがほんとゴッホ。オーヴェールの風景も、きっとこんな風だったろうなあ。

そしてとにかく、ミレーは夕暮れの光を描くべき画家だと思うんですよ。まさに「晩鐘」のジャンル。
この部分がミレーの最大の武器だと感じる。
そういう画題の中では「農場へ帰る羊飼い」が一番いいと思った。
夕暮れの斜めの光、その色がいい。粗さもいい。銅版画っぽい。宮沢賢治を思い出す。

「夕暮れに羊を連れ帰る羊飼い」……これもいいけど、「農場へ帰る羊飼い」と構図が酷似。
ついでに言えば、オルセーにある「羊飼いの少女」も構図は相当に似てるようですね。
羊飼いといえばこれしかないのか!と。

かなり後期に、神話画を描いてるけど、これはちょっとなあという感じ。
wikiを見たところ、初期には売り絵として裸体画を描いていた時期もあったそうだ。
まあ食べてかなきゃなりませんからねえ。

入場料、前売り1300円、当日1500円と高かった。当日1300円くらいに抑えて欲しいところ。
まあ見て良かったとは思えるエキシビでしたけれども。
やっぱり「部屋着姿のポーリーヌ・オノ」だな。絵はがき売ってないってどういうことやねん。
売り切れちゃったのかな。でもグッズも全然なかったんだよね。どうしてだろう。
やはりあの蒼い顔色はグッズ向きではないのか……

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