久々のエキシビなので、1月に始まった時はけっこう「よし!」と思ったものだが、
行く根性がなくて、そろそろ終わりが見えて来た今頃になって行ってきた。
3月23日まで宮城県美術館で開催中。
総じて言えばね。なかなか良かった。
だが個別に言うと……大雑把に言って前半がパリ時代、後半がチェコ時代で、
ミュシャはパリ時代だよなあ、という感を新たにした。
やっぱりミュシャは商業デザイン、装飾美術の人だと思う。
まあたしかにプラハの聖ヴィート大聖堂のステンドグラスは素晴らしかった。
プラハ市庁舎の装飾もなかなかの力作で感心する。
だが今回来ている展示もそうだし、わたしが見聞した範囲で言えば、
チェコに戻ってからの妙にシリアスな、色彩が暗い絵というのは、ミュシャの良さが全然感じられないの。
何でああいう風に青銅色の肌ばっかり描くかね?
真面目なテーマを美しく書いたって別に悪くないんじゃないの?
シリアスなテーマだからって、あえて得意の美しい女性と花を避けてる。絵が暗い。
まあその類はパリ時代に死ぬほど描かされて食傷、というのはわかる気がするけど、
最大の武器を捨てるほど抽斗の多い人じゃないですよね、アナタ?
色と線の人でしょう。なによりもまず。
それをどちらも封印したらあとに何が残るんですか。
たしかに祖国愛と若干の詩情は残る。しかしそれでミュシャの絵として十分かっていうと不満だよ。
何しろわたしは「スラヴ叙事詩」をわざわざ見に行った物好き……
しかも今はプラハにあるそうだが、その頃はけっこう僻地のモラフスキー・クルムロフにあって……
それを見に行く日程を組み立てるのに苦労した。
そこまで好きかっていうと、そこまでではなかった気がするんだけど、「スラヴ叙事詩」はなんか
見てみたかったんだよね。ポスターのミュシャが、巨大絵画でどう描くのか。
という期待が大きすぎたせいか、実物を見た感想は、あまりいいものではなかった。
やっぱり巨大な絵は巨大さを必要とする絵であるべきだと思う。
だが、シリーズテーマは雄大ではあるものの、テーマと描かれたものは無論イコールではないわけで……
「この絵を描くんだったら2メートル×1メートルで十分じゃない?」と思う画面構成。
わたしが思うに、まさにミュシャもそう思ったんだろう、空いた空間に異時同時図的に
いろいろ描いているんだけど、それがいかにもつけたしっぽい。
8メートル×6メートルっていったら超巨大な絵ですよ。
それを見る適正距離も確保する必要があるわけだし、テーマが雄大だからって、
大きく描けばいいというものではない。
今回のエキシビで、「スラヴ叙事詩」の当然実物は来てなくて、ビデオ映像での紹介なのですが、
実物を見たよりビデオや画像での紹介の方が印象がいい気がするなあ。
わたしはそこらへんにミュシャの背伸びというか勇み足を見るので、
後半のいかにも苦悩する色彩には無理を感じてしまう。
まああのテーマで赤黄色ピンクで描けとは言わないんだけどさ。
しかしせっかく色彩という武器があるのに……という思いがある。
なので、エキシビは前半はけっこう丹念に見ましたが、後半は疲れたのもありなげやりでした。
やっぱり前半部のポスターの類が良かったな。これがものすごく!というのもないんだけど、
平均的に良かった。
印象的なものをあえて言えば、
超有名どころの「ジスモンダ」「メディア」
「ジスモンダ」は褪色してないとしたらとても微妙な黄色と水色。ポスターとしては
だいぶ難しいと思われる薄さ。
「メディア」は暗色系の色彩の組み合わせの上手さ。これもポスターとしては相当に難しいと
思われる暗さ。目の下のくまとかも。
「モエ・エ・シャンドン アンぺリアル」
エジプト風な女。ゴージャス。このくらい細部まで入念なミュシャが好きだな。
ポスターでも、大画面の大雑把さは好きではない。
「パリスの審判(ヴィエマール印刷会社のカレンダー)」
言われないと実はパリスの審判には見えなかったりしたのだが……
色の置き方がスゴイな、と思った。雑に見たので今一つ記憶にないのだが、方向としては
ヴァトーの「シテール島への巡礼」に似た水色とピンクの多用だった気がする。
それを変わった色の置き方にしている。
「ウィットマンのキャンディの箱」
商業デザイナーなので、キャンディの箱なんかも手掛けているわけだが……
メインの画面よりも、側面の、ミュシャが描いたのかどうか全くわからない部分の
黄金モザイクのデザインが妙に良かった。ビザンティンモザイクのアールヌーボー風味。
色が武器のミュシャですが、白黒で描いたデザイン集とか、歴史画とか不気味絵とかもなかなか。
「スペインの歴史の挿絵の習作」なんか、習作ながらかっちりと描いていて好きだったなあ。
ちっちゃく描いた方が、ミュシャの絵は活きる気がしますよ。
とにかくキレイなポスターがいっぱいで、そういう意味で見て損はしないエキシビ。
キレイですから。キレイなものをたくさん見る機会なんて、実はそうはないですから。
出品点数も、相当がんばった感じですねー。エライ。
小物も多いけど、まあまあ大物や定番も来てるので、薄い感じにはならない。
……まあそれがゆえに、見るのが大変。睡眠と休養を十分とった後に行って吉。
わたしは途中で昼寝をしました。
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