アメリカ文学最短コース遍歴中。
わたしは文学作品が好きな方ではなく、とりわけアメリカ文学は「アメリカとはなんぞや?」という
疑問から基本ラインをツブしているに過ぎない。
なので、今まで読んで来たアメリカ文学のラインは、修行、あるいは苦行に近いのだが、
これは読んでとても愉しかったです。
よく聞くタイトルだけど、こんな作品だったんですねえ。
アメリカ人が書いたアルハンブラの物語。――は?という感じでしょ?
アメリカ人がアルハンブラの何を書くのか。何を書けるのか。
そしたら、実に素直に“聞き書き”の話でした。
スペインに旅して、魅力的なアルハンブラに滞在し、そこで聞いた昔話を詩情豊かに再話している。
アーヴィングの立場は旅行者で、そういう意味では読者のほぼ全てが同じ立ち位置で読める。
それこそ“アルハンブラの息子”が書いたりすれば、
あまりにも熱が入り過ぎて、読者は共感しにくいだろう。
アーヴィングが書いたからこそ、その興味と憧憬とかすかな懐疑は読者のものだ。
滑らかで上品な語り口。これは訳文もお手柄なんだろう。語り手の誠実な人柄を感じさせる。
魔法的な――芝居がかった話を、芝居がからずに軽快に書いたのが成功している。
その上で、しつこくない程度に煌めきをちりばめてあるので、その魔法的なアルハンブラも感じられる。
行ったことがある人はその経験なりに。行ったことのない人はないなりに。
むしろ行ったことのない人の方が、描けるものは豊かかもしれない。
これをガイドブックとして読んじゃいかんなー。
それは大間違いの読み方。例えて言えば、ラフカディオ・ハーンを読んで松江のガイドブックに
しようとするようなもんだ。違うだろう、それは、と言いたくなるでしょ?
もちろん――
……ここで話は真横に逸れて、「旅」の話になりますが、
旅は何を見るかが大事でしょ。同じ風景を見ても、そこに何を見るかは人それぞれ違う。
人それぞれの心の蓄積が別なものを見せる。
――もちろん、精神的なガイドブックとしては優良で、アルハンブラに行く予定がある人なら
事前に読んで大吉。見えてくるものが違うはず。
いいね、これはね。お薦め。
岩波書店
売り上げランキング: 20,681
コメント