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◇ 大原富枝「原 阿佐緒」

(わたしにとっては)郷土の歌人、原阿佐緒の評伝。
著者の大原富枝さんは、源氏物語の何だかを読んだことのある人。……と思ったのだが、
市図書館で著作を検索しても源氏関係がない!いや、何かは読んで、馴染みを感じているのだが。
「建礼門院右京大夫」だろうか。「かげろふ日記」だったろうか。
まあ誰かとの対談集とかかもしれないし、歴史エッセイの一編かもしれない。
個人的にはわりと信頼感のある人。

――信頼感のある人だが、本作は、対象とがっぷり四つに組んだという熱意は感じなかったかな。
まあ……仕方がないかねえ。評伝の類は、やはり好きな人のことを書くのが基本で、
それが双方に(書く方と書かれる方に)とって幸せなことなんだと思う。
しかし大原富枝は、原阿佐緒に共感は、――おそらくほとんど出来なかったのではないか。

それも無理ないかなあ、というような原阿佐緒の生涯。この本を読んだ限りではね。
とにかくなんつうか、――頭わるい。恋愛的に頭が悪い。
恋愛なんて頭でするもんと違う、という意見も当然あるだろうが、いや、それにしても。

イケメンのダメ男に惹かれる典型。
唯一、まともだった男が古泉千樫のようだが、彼とはうすーい付き合いに終わってしまうんですね。
まともだったからこそ薄い付き合いに終わったとも言える。
他の数々の男は……子供が出来たら逃げる、そもそも不倫、暴力男、財産目当て、と、こんなのばっかり。
少しは考えて付き合え!と一喝したくなります。

極め付け、原阿佐緒で有名なのは石原純(いしはらあつし)との不倫事件だが、
――これが、原阿佐緒の方はむしろ石原純を「生理的にキライ」だったそうだから。
石原純がしつこく迫って迫って(阿佐緒になかなか寝てもらえないので自殺未遂まで起こしている)
もう仕方なくつきあうしかなかったらしい。
そして同棲数年後、阿佐緒は精神を病んでしまうというのだから……
踏んだり蹴ったりですよ。そもそも不倫をするというところからアホだと思うけど、
せめて、せめて好きな人とでしょう……。キライな人と不倫て。有り得ないよ。

石原純も、業績は超一流の人なのに……。
評伝では阿佐緒と別れた後、相当零落して死んだように書かれている。
なんか異常な人のようにも感じますね。一般常識を逸脱した執着。簡単に言えばストーカー。

こんなのは今なら完全にストーカー犯罪で、阿佐緒は被害者だったはずだが、
当時は浮かれ女とお堅い大学教授のスキャンダルですからね。
日頃の行いが行いだったとはいえ、妖婦扱いされたのは気の毒だった。

大昔、阿佐緒の記念館に行ったこともあるが、そういう部分はまったく忘れていた。
まあこれは大原さんの見方だし、わたしは客観的事実かどうかを判断出来ないけれども、
本作は、その部分をわたしに知らしめてくれたのが良かったところ。
だって、石原純と相愛だと思われたら、阿佐緒も浮かばれまい。

原阿佐緒

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