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◆ 若冲が来てくれました プライスコレクション 江戸絵画の美と生命 その1。

初めてこのエキシビのタイトルを見た時には、
関係者の心躍りに共感出来るとともに、あまりにもそれがアカラサマで微苦笑したものだが……

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――以前、テレビ番組でエツコ&ジョー・プライスコレクションを見た時に、
“金をたんまり持ってて趣味がいい。これ最強。”

と書いたが、すみません。わたしは甘かった。
そう書いた時に思っていたより、プライスコレクションはさらに最強でした。少なくても3倍くらい。

だってさ。テレビに映るのが最良の部分だと思うじゃないですか。普通は。
それだけでも十分強かった。強いって何が?いやなんか、コレクションとして強いと感じた。
しかしヤツは(プライスコレクションは)まだまだ本気を見せていなかった。
テレビで取り上げたのは、色々色々ある名品の、ほんの一部だったんですねー………………

仙台市博物館にて3月1日よりプライスコレクション、エキシビ中。
行って来ました。

もうね。何と言ったらいいかね。
これが個人のコレクションか!という充実ぶり。粒選りの粒揃い。どんだけ持ってんねん!
それが明治期の混乱に紛れて、じゃなくて、現在も生きてる人が買い集めたことが驚異。
(まあ昭和戦後の混乱があったのは確かだろうが)
あるところにはあるんだなあ。

来ている数もすごいんですよ。
エキシビのタイトルもタイトルだし、入場料もけっこう安く設定しているから、
言うてもそう数は来ないと思っていた。こないだMOA美術館が尾形光琳の
「紅白梅図屏風」を持って来てくれた時のように、目玉とその他になんぼか、という規模で。
わたしはあの規模の展示もなかなかいいもんだ、と思ったので、それでかまわなかった。
来てくれるだけでけっこう嬉しかったんですよ。

そしたら……展示作品目録に載っている数、100点。
小さな仙台市博物館には入りきらない数ですよ!
実際、わたしは4分の3ほど見たところで疲労困憊。一旦お昼寝していいですか?と言いたかった。
何しろみんな見どころのあるモンばっかりで。

正直、わたしは特に日本美術が好きってわけではない。
目にひっかからない、通り過ぎてもかまわない作品も数多い。
美術なんてそんなもんでしょう。好きな物は何かを語るけれども、
むしろ、割合でいえば語らない物の方がずっと多い。
それが今回のエキシビでは。

語りまくり!!

一枚一枚足止めされるから、時間がかかってしょうがない。
「うおぅ」「うむぅ」「うぎぃ」……と(小声で)奇声を発しながらの鑑賞。
これは無くてもいいんじゃない?というものがほとんど無かった。
人には(わたしには特に)好き嫌いがあることを考えると……すごいことですよ。

みんなどこかにいいところがあって。
それは線のかわいさだったり力強さだったり、色彩の鮮やかさだったり、精巧さだったり。
「うん、これは買うよね……」と納得出来るものばっかり。

わたしの想像だけれども、ある程度以上数を持っている、“コレクター”の場合、
コレクションとしての購入に堕す危険性が高いと思うんだよね。
どういうことかというと、何かを買うにあたって、
「手持ちにこれとこれがあるから、これも買っとくか」的な。
その作品の好き嫌いじゃなしに、他とのバランスでつい買ってしまう。
値段は比べものにならないけれども、本なんかを買う時もそうでしょう、
好きな作家の作品だから、読んで特に面白くもなかったけど買う、というような。

いや、まあそうやって買ったコレクションのための収集品も実際は多いのかもな。
今回持って来てないだけで。
しかし全体でどのくらい持ってるんですかね?全作品を持って来たわけじゃないでしょう?
ロサンゼルス・カウンティ美術館の日本館の中核(全部?)コレクションのはずだ。
でもめぼしいものはみんな持って来てくれたっぽい。
テレビで見たあれもこれも、けっこう揃っている。

実は、3月1日のジョー・プライスさんのトークショー、応募したけど外れたのだ……。
実に残念だった。聴きたかったなあ。

……と、まあ、前置きだけでこんなに長くなってしまいましたが
(え?これまだ前置き?……いやまあちょっと興奮しすぎて)
プライスコレクション、見てきました。
わたしにしては珍しく(人生数度しかない)図録も買ってきた。

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最初の部屋に屏風だけいくつか並べていた。ここは常設展券だけでも見られるんだって。
わざわざ来て、エキシビ見ないで帰る人も少なかろうが、まあちょっとニクいよね。

まず最初に出てくるのが長沢芦雪「白象黒牛図屏風」
……これがねえ……。しょっぱなからかましてくれるんですよ。
六曲一双の屏風、右隻いっぱいに白象、左隻に大きく黒牛。
白象はじーさんに、黒牛はおばさんに見える。
白象の方には片隅にカラスが2羽いて、黒牛の方には腹のあたりになにやら白い小動物。
小動物は、一瞬わからないけど仔犬ですね。
しかしなんぼなんでも仔犬に比べて牛がでかすぎやけどなあ……。
この犬も横座りしてかわいいし、2羽のうちの右側のカラスがとても生き生きしている。
芦雪らしいユーモアあふれる画面。……って、長沢芦雪あんまり知らんけれども。
(あ、赤瀬川さんの本に出ていたのを見たな)

中村芳中(なかむらほうちゅう)「草花図扇面貼交屏風」
これこの部屋にあったものかちょっと忘れたが……
線が太くて、色付けがぽてぽてで、もうとても和む感じの画風。
たらしこみの技法がこれでもかっていうほど目立っていて、
ここまで目に付くとたどたどしいが。だがこのぽてぽてぶりがいい。特に白梅のぽてっと感がいい。
罌粟なんか、似たような絵柄でもっとずっと繊細で大人っぽいのがいっぱいあるではないですか。
それを真似して描いた子供絵っぽい。松なんか、松なんだかキノコなんだかわからない。
口元が緩む。

「源氏物語図屏風」
こういう類の画題は山ほどあると思うが、わたしが惹かれたのは、右隻の左下にある
ちいさなちいさな……おそらくこれはスミレだと思われる植物。
葉っぱに丁寧に濃淡をつけて。……大画面のこんな小さな部分にまで手を抜かず。感動。
そのスミレから右に視線を移すと、ほぼ白、おそらく胡粉塗でかすかに光っている感じの桜がびっしり。
八重と一重かなあ。花びら一枚たりとも手を抜いていない。
これは図録では全然良さが出ていないですけども、もうこの桜だけで買いますよ。
左隻は紅葉。この紅葉も美しい。もうこの紅葉だけで(以下略)
あとは一双を一目におさめた時に、渡殿のカキッと急角度で曲がったラインがとても美しい。
画題は源氏だが、人物は「あ、いるのね」程度です。

……3作品でこんなに長々と書いてしまって大丈夫でしょうか。
大丈夫じゃない感じでしょうか。

曾我蕭白「寒山拾得図」
えーと、寒山さんの方ですね。これを見た時吹き出した。
いるわ、こういうおばさん!!
なんかもう表情がさ。誰か芸能人でも似た人がいた気がするのだが……
いかにも曾我蕭白。というほど知らんが、曾我蕭白にありがちなブキミまでは行ってなくてカワイイ。
しかもこんなにオモシロ系なのに、線がすごく……なんとも言い難いんだけど、
温かくて、それでいて端正。手指、足指。箒の模様。ああ、この線を言い表しようがない。

中路定季「仏涅槃図」
これは解説を読んで知ったのだが、いるわ、ほんとに魚や貝が!
魚も超珍しいけど、……貝って!貝って!
多分描いた人は(全体を見るに)大真面目なんだろうけど、釈迦入寂に駆けつけるアワビ。……ないやろ。
大変細かい線で描かれ、色彩も美しい労作。
今まで涅槃図を見ても感じたことはなかったが、「最後の晩餐」をなぜか思い出した。
あ、一番左にいて顔を背けている菩薩だか天人だかの雰囲気が、
ダ・ヴィンチ「最後の晩餐」のヨハネに似ているせいかもしれない。

葛蛇玉「雪中松に兎・梅に鴉図屏風」
これは前にテレビで見た時、黒に惹かれた。
実際に見たところ、やはり黒。木とか鴉なんかよりも、黒の空間が語る。
雪が吹き込んで来る。
……しかしこの松の幹の表現は何かね?なんかとてもサポテンっぽい感じだが。
あんまり見たことがない気がする。

あとは……
鈴木其一「飴売り図」←線が自由自在。
長沢芦雪「軍鶏図」←足のぶつぶつ感が大胆。
呉春・松村景文「柳下幽霊図」←コワイ。顔がコワイ。
竹田春信「達磨遊女異装図」←なんだこの画題は!初めて見たぞ!達磨の顔でかすぎ!
河鍋暁斎「閻魔と地獄太夫図」←やはり解説の通りに閻魔様は岡惚れしているのかなあ。
別の解釈もあり得る気がするのだが。とにかく閻魔様の表情が秀逸。
中住道雲「松竹梅群鳥図」←キレイな絵でね。これはシールとして商品化するべきじゃないだろうか。
ミュージアムショップで売ったら売れるぜ。鳥がそれぞれ生きてるねー。

……てな感じですかね。

で、実はここまでで、全体の4分の1くらいです……。
最初だから気合いを入れて見ていることを考えても(これまでもすでに長いが)先は長いです。
そろそろ疲れたので、……最初からそんな気はしていたのだが、その2に続く。

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