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< レ・ミゼラブル >

もう、それはそれははまり込んで見た。

……というたら大げさか。
いやでも、ミュージカル好きなら見なきゃ勿体ない映画だ。
もっとも期待値のハードルを上げ過ぎると逆効果になる場合がありますので、大概にしときますが。

2時間50分。長いね。長すぎるね。
「ホビット」も控えている身としては、どっちか片方は2時間超くらいでまとめて欲しかったものだ。
そんなことを思いながら期待はほとんどせずに見に行く。
ミュージカルを映画化するのは、簡単に見えて至難の技だから。

そしたら。冒頭の画柄でびっくり。
なんで?なんで海?これレミゼですよね?なんで海から始まる?
……まあこれは、囚人たちの強制労働の場所として船のドック、という設定にしただけなんですけど。
しかしこれがかなり効いたなあ。

原作ではどうか忘れたけど、普通、囚人の労働と言ったら、
穴掘り系、あるいは重量物運び系、のイメージじゃないですか。
それをドックでの帆船牽引。荒れた海で波が襲いかかる。飛び散る飛沫。
すごく画が動くんですな。大きな船と小さな人間の対比もあるし。より一層過酷さが強調される。
おそらく物理的には、この水の勢いでは、本当ならば人間は立っていられずに流されるだろう、
という部分がかすかに気になるけれど、よくこれを思いついたなーと感心。
というか、ここをこうしようと思ったことに感心。それっぽければ何も疑問に思わない部分だからねえ。

わたしのレミゼ経験は、
ミュージカルの舞台→舞台が良かったので原作を読んでみた→今回の映画、という順番で、
舞台と原作はもう10年以上前の話。
でも舞台は素晴らしかったので、CDは折に触れて聴いていた。
わたしはあまり生活で音楽を必要としないタイプなので、何度も聞き返すCDというのは
ざっくりジャンルで言うと、ミュージカルと姫神とジブリのサントラくらいしかない。
レミゼはその中でも「キャッツ」と「ファントム・オブ・ジ・オペラ」と並びリピート率上位。

曲がいいですからねえ、まず。
全ての曲が粒選りな感じ。スーザン・ボイルで有名になった「I DREAMED A DREAM」も
「ONE DAY MORE」も「ON MY OWN」も「THE PEOPLE’S SONG」も
「DRINK WITH ME」も……好きだ。みんな。

記憶力の悪いわたしは舞台の記憶はあまり定かではないが、回り舞台を上手く使っていましたね。
特に「LOVELY LADIES」のあたりで。
ガブロシュの死のシーンも鮮やかだったし、バリケードのセットも良かった。
わたしが見た時のバルジャンは、以前「ジーザス・クライスト・スーパースター」の主役だったと、
隣に座っていた観客に教えてもらった覚えがある。

冒頭のシーンで、おお、と思い、そして回心のシーンまでは映画的にはさっさか進むんだ。
いっそ潔いくらいにあっさりと駆け抜け。
この辺はほんとに導入部なので、あまりじっくり描きすぎるとテンポ悪くなるし。
この忙しさは諸刃の剣かもしれないけど、その後スピードダウンしますから(ある程度は)、
観客は心配しないように。

わたしはヒュー・ジャックマンを知らず、話も忘れていたので、
工場主がバルジャンだと気付くのが相当遅れた。
ファンティーヌが追い出されるあたりでようやく、ああ、そうだった!と思った。
だって冒頭に出てきた坊主頭で真っ黒な人と、市長さんって外見的には全くの別人ですよ。
むしろ別人すぎて、ジャベールが、怪力というだけで両者を繋げられるのが驚き。
というか、無理がある。まあいいけど。

ラッセル・クロウは初めて悪役を見たなあ。悪役の方が合っている気がする。
だがジャベールのいやらしさはそんなに出ていなかった。わたしは、それはまあいいと思うんだけどね。
だってジャベールって見方を変えれば、職務に熱心な……まあ偏執狂的に熱心で、視野も狭いけど、
マジメな警察官ですよ。そもそも小役人に視野の広さなど要求してはいかん。

そしてアン・ハサウェイに驚愕。
わたしは彼女を、ゴージャスで口の大きい美女としてしか認識しておらず。
(「プリティ・プリンセス1 2」「アリス・イン・ワンダーランド」「ダークナイト ライジング」
というラインナップなら無理ないでしょう。)
そしたら!アンタ、そのカラダはどうした!
ついこないだだろう、グラマラスなキャット・ウーマンをやったのは。それがものすごいやつれっぷり。

いやー、作りましたね。役者ってスゴイ。キャット・ウーマンもハマり役だが、今回のこれも素晴らしい。
そして歌がものすごく良かったね。SOUL!という感じだった。泣けた。
これ、舞台だともう少し冷静な立ち位置で歌う歌なんだよね。でもこの映画ではまさにどん底の歌。
ほんと良かった。怒りと悲しみが歌に籠もって。
今回の一押しは彼女だな。

「WHO AM I?」の最終盤は少しスピード出し過ぎかなー。
裁判所の場面をもう少し長くやるべきではなかったか。その後すぐファンティーヌの臨終なので、
今一つ流れが納得出来ない。台詞で説明出来れば楽なんだろうけどなー。
レミゼは全部歌ですから。

テナルディエさんたちのシーンはけっこう長尺だけれども面白かった。飽きずに見られた。
サシャ・バロン・コーエン。そうですか、「ヒューゴの不思議な発明」の鉄道公安官……。
ヘレナ・ボナム=カーターはバートン作品以外でもこういう役やるんですねえ。

「SUDDENLY」というのは映画オリジナルの曲らしいのだが、
もっとしつこくやってもいい気がした。メロディラインは忘れたが、状況をうまく説明する曲だと思う。

1832年の冒頭部もけっこう詰め込みで、少しツライかな……。
だが、パリの街の貧困層の悲惨さを表した画柄は上手いと感じた。暗い横丁を使った所がにくい。

コゼットとマリウスの一目惚れのシーンはだいぶ不満だ。
他で鮮やかに画を操った監督なら、もう少し何とかなったのではないかと。
あの程度で一目惚れなら、もっとベタに建物の角でぶつかり、じっと見かわす瞳と瞳……
くらいやっても良かったんじゃないか。

そしてやっぱりいいですねえ、「ON MY OWN」。
サマンサ・バークス。彼女も熱唱。
マリウスはエディ・レッドメイン。歌は上手かったが、そこまで好みではないかな。
好みでいえば、アンジョルラスのアーロン・トヴェイトの顔が好み。
しかし彼の純粋さが学生全滅の悲劇を生むのだが。実際にそばにいたら熱くてうっとうしいタイプだろう。

白眉、「ONE DAY MORE」。
これは曲がいいですよねー。たしか6重奏くらいですか。
ここからバリケード完成までの画柄も良かったなあ。こういうのは舞台より映画がアドバンテージ。
映画だと次々カメラを切り替えていけますからね。
市民が家具を気前よく放り出すのも(そして実際の戦闘においては固く鎧戸を閉ざすのも)
上手いディテイル。おばあさんからキスで椅子を取り上げるのはやり過ぎと感じだが。面白かったけど。

映画だけを見ていると、あのバリケードだけが唯一の抵抗勢力みたいに感じたんだけど、
一応他でもそこそこ戦っている人はいたんだよね?その辺をもうちょっと詳しく見たかった。
ここしか映さないから、若さゆえの跳びあがりに感じてしまったことも否めない。
犬死に感が増幅されることは、むしろ狙い通りなのかもしれないが。
ガブロシュの死のシーンは映画でも相当に鮮やかだった。

盛り上がるという意味では、このあたりまでかな。
話はもう少し続くが、曲としても話としても画柄としても、あとは収束していく感じ。
下水道のシーンは、役者は大変だよこりゃ。と思いました。
あとジャベールが落ちる水道?運河?のデザインが美しかった。

だが!「EMPTY CHAIRS AT EMPTY TABLES」の歌はいいとして、
その直後の結婚式は見ていてツラかったぞ!
悲痛に友の死を嘆いたすぐ後に幸せいっぱいの笑みですからねえ。
この辺は舞台でなら暗転を使えても、映画的には難しい部分。

そして最後に登場するファンティーヌが美しかった。髪が短くても美しかったよ。
エル・グレコ的聖母に見えた。
全然ふれてないアマンダ・セイフライドの高くてか細い声も嫌いじゃないです。

歌がものすごく上手いというより。
話がものすごく面白いというより。
画柄と、役者の熱演を味わうべき映画だと思います。
熱演だよなー熱演だよなー熱演だよなー。みんながんばった!
この映画で特筆すべきことは、普通めったにやらない歌唱撮影同時撮りだそうだけど、
やはりその故に感情が籠もったんだろうな。今後続くミュージカル映画にも継承してほしい方法だ。

DVD出たら買うかもなー。
映画が終わった後、拍手をしたくなったもの。
どうもありがとう。

レ・ミゼラブル~サウンドトラック
サントラ ラッセル・クロウ エディ・レッドメイン アマンダ・セイフライド サマンサ・バークス ヒュー・ジャックマン アン・ハサウェイ イザベル・アレン サシャ・バロン・コーエン アーロン・トヴェイト ダニエル・ハトルストーン ユニバーサル インターナショナル (2012-12-26)売り上げランキング: 15

しかし今年ものっけから、文章が無駄に長いな……

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