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◇ 稲見一良「帖の紐」

「きぬたのひも」と読んで来たが、正解は「たとうのひも」でした。
きぬたは「砧」でしたね。たとうは読めなかったわ。

稲見一良は「ダック・コール」で初めて読んだ。
これはハードボイルドではあるけれども、その陰に詩情が見え隠れして、
なかなか素敵な作品だった。……これ読むとあんまり素敵に感じてないようだけれども。

その後、稲見作品を、図書館にある分は多分全部読んだかな?10冊弱。
ハードボイルドすぎて読み切れなかったものは1、2冊あるかもしれない。
そしてこのエッセイが、最後の一冊。

著者は63歳でガンで亡くなっている。
54歳の時にガン発見。それまでは執筆とは関係ない、映像関係の仕事をしていたが、
その後は生きた証として作品を残すために、執筆活動に専念することにしたそうだ。

この人は好きなものが銃、猟、アウトドア、バイク……とにかくハードボイルドの国から
ハードボイルドを広めに来たような人で、作品も大なり小なりそんなテイスト。
ファンタジーに振れていたり、よりハードボイルドに振れていたりはするけれども。

だが、エッセイだと如実に価値観が出ますねー。当然のことですが。

わたし、正直ハードボイルド嫌い。好きなものは人それぞれでいいんだけれども、
なんか子どもっぽい気がしている。「カッコイイものがカッコイイ」っていうのは、
……まあねえ。そりゃどうだけどねえ。って感じ。

で、そういう人は無意味に女性を下げるところがあるんじゃないかと……
このエッセイを読んで若干気に障った。
「女子供」というワードがけっこう出て来るんですよねえ。
当然、そういう文章の文脈では女性が下げられてます。
奥さんとか娘さんのことは魅力的に書いているのだが。

まあ1931年生まれの人が1996年に出した本での言説ですから、
2025年の価値観で批判しても仕方ないんですけど。
考えてみれば100年近く前に生まれた人なんですよね。

それを別としても、このボリューム少な目のエッセイ集、6割強は、ありがちな世相批判。
たとえば昨今の(といっても当時は貴乃花が人気だった頃)相撲人気は女子供が
キャーキャー言っているだけ、とか
「羊たちの沈黙」はこの程度でアカデミー賞か、とか
ペット不可のマンションで犬を飼っている住民への文句とか、

……まあでもね。本人がこのエッセイを連載した時期は、おそらく大部分が
入院中か、自由に行動が出来なかった時期だろうからね。
話題が身近なところや、テレビを見ていて思うところになるのは仕方ない。
そして若干偏屈な性格のこの人は、見て腹立たしく思うことが多いのはそうだろう。
それはひじょーによくわかる。

だが、いい作品を残した人の最後のエッセイ集がこれか、というのは……
少し残念に思う。玉石混交ですね。感覚的には石が6割強。

でもいい方のエッセイは良かったです。
詩情漂う。あるいは朴訥な、無骨な家族愛の表明とか。好きな銃やバイクの話とか。
テレビドラマの銃関係の描写がデタラメだ!という怒りは、
銃に詳しければそうだろうなあ、と思いながら読んだ。

ご冥福をお祈りします。30年前の話ですが。

※※※※※※※※※

わたしは、人間を2つに分ける基準として、男女はあまり考えない方かなあと感じた。

いや、ハードボイルド繋がりでね。
昔、今はもう行ってないお店の店員さんとけっこうお喋りをしてたんだけど、
その人がハードボイルド好きだったのよ。
北方謙三とか熊谷達也を熱心に薦めてくれた。バイクが好きで、洋服の好みもそれっぽく、
会話に「男は……」「女の人は……」という文脈が多かった。

それに対して、「ハードボイルド好きはやはり男女にこだわっているのか?」と
かすかに違和感を抱いていた。反感とまでは言わないけれども。
そもそも話の内容自体は反感を持つ内容ではなかったし。
ただ固定観念が感じられはしたかも。

もちろんわたしも男女の区別を全くしないという意味ではないですが。
高校は共学に行きたくて共学に行ったし、
単にお喋りする場合、男女混合の方が面白い気がする。
youtubeの動画や声優番組では男性が喋っているものの方が面白く感じるものが多い。
性差による違い、それに対する好みは当然ありますよ。

ただ「男ってこうだよね」「女ってこうだよね」と意識にのぼることはあまりない気がする。
友達の、旦那についての愚痴に付き合う時の相槌では多少使うが。

だいたいのことは個人差だと思っている。性差じゃなくて。
もちろん性別に伴う得意不得意はあると思っていて、ちょっと重すぎるものは運んでもらうし、
開けにくいジャムの瓶は男性に開けてもらいます。

わたしが人間を2つに分けるとしたら……わたしが分ける基準は、外向性と内向性かなー。
内向性の人は、主に自らのことを考えてると思うんですよ。わたしはそのタイプだから、
内向性の人に親近感を抱く。

内向性と外向性は、人との距離感が違うから短い時間では友達になりにくい。
反対の人と仲良くなると世界は広がるメリットがありますが、デメリットは疲れることです。
同じ方向の人と仲良くなると、安心してお付き合い出来ますけど、
内向性同士の距離は比較的縮まりにくい。

人間の二分割。いろんな分け方があるんでしょうね。
年齢とか。経済力とか。美醜とか。着ている洋服もあっち側とこっち側でわかれるし。
いや、洋服は2つにわかれるほど単純ではないのか?

こういうバイアスを重ねながら、人間はアイデンティティを探っていくんですかね。
……そう考えたところで思ったのですが、自分はこの年齢になって
アイデンティティを探る行為も遠い物事になって来たので、
よく考えたら男だから女だから、外向性内向性など、
アイデンティティの線引きをする必要がなくなってきたと思いました……
若いうちですかね、こういうことを思うのは。

あ、もっと自分の中で根強い分け方を思い出した。
本を読む人か、読まない人か。これは強い区別。

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