「マノン・レスコー」は、その特徴的なタイトルが昔から気になっていた。
今回ようやく、よ~う~や~く~~~~、読んでみました。
――そしてなんかピンと来なかった。
いや、ピンと来ないのは想定内……というか、文学作品が面白くないのは普通なのよ。
わたしはブンガク畑の人ではないですから。
だが、話の作りに違和感が。フィクション的遠近法が狂う印象。
話の大部分は若い男性の一人称で進む。――彼はマノン・レスコーに首ったけの青年で、
彼女に会ったことで人生の道をいたるところで踏み外しまくり、
最終的にはそれほど愛したマノンにも先立たれ、その波乱万丈の半生を
通りすがりのおじさんに語る、という小説なのだが……
なんかねー。語り手もマノンも、可愛らしすぎるのよ。
こんなカワイラシイ人たちが、こういうことやる?っていう整合性が。
お父さんを欺き、友人には際限なくお金を借りまくり、マノンの(若干悪党の)兄と組んで
……いろいろやってるんだけど、やってることのわりに、なんか本人たちの
人の良さが前面に出ててさ。
人殺しもするんだっけ?修道院から脱走しまくり&脱走させまくりだし、詐欺もするし。
それなのに感触はむしろほのぼの。
主人公だけならまだしも、マノンも予想よりもはるかに善良(?)で……
って、やってることは善良ではないんだけど、あくどさがないのよね。
ファム・ファタルって感じじゃないのよ。まあ貞操観念はないんだけど、それだけ。
うーん。1731年刊行。思ったよりもはるかに早い。
イメージとしては「レ・ミゼラブル」とかせいぜいそのちょっと前のイメージだった。
もっと小粋で悪の魅力満載で、フランス的エスプリの。
これ小説としては早い時期だから、フィクションとしてまだ成熟してないということなのか?
同時代のフランス文学と比較したいと思ったが、……同時代で読んだことがあるものが
ただの一つもなかった。
――だがしかし、解説を読んだらまあ……100%納得出来たわけでもなかったけど、
なかなか面白かった。
作者のプレヴォって、自分も何度も修道院から逃げ出したんだってね!
主人公まんまじゃん!
修道院から脱走し、その後軍隊へ。しかも二度も。
その後またイエズス会に戻って修行するが、そこからより一層厳格なベネディクト会へ移り。
24歳で止せばいいのに修道士の請願を立て、修道士になった。
だがそこから小説を書き始め、信仰とは相容れなくなる。
そして3度目の脱走。その後はオランダやイギリスで逃亡生活を送りながら文筆活動。
さらにプレヴォの狙いは「品行の教化――楽しませながら教育する」だったらしい。
作品を、教育のための「例」として使用した。少なくともそのフリをした。
低俗だと思われていた小説を書くエクスキューズだったのか、
実際にそう信じていたのか、それは不明。
なるほどねー。そういう背景があったと思ってみると、どっぷり悪人を描くわけにも
行かなかったか。悪の魅力を書くわけにもいかなかったか。自分に似た主人公を
悪人とするわけにもいかなかったか。
なるほど。
フィクション的遠近法の混乱の一端にそういう理由があるのを知ると、
それはそれで面白かった。
まあ文学における時代的な理由もあるだろう。日本文学だって黎明期の
「当世書生気質」は文章に違和感ありまくりだもの。
その他に疑問を感じた――しかし解説を読んだらまた面白いと思ったことは、
フランス本土と新大陸の関係。今まで一度もそんなこと読んでなかったから。
なるほど。娼婦を捕まえて刑罰として新大陸へ送るというのは――
女性の数が絶対的に足りなかったせいなのね。
新大陸も、かなり未開の地として書かれている。なんだったらアマゾンの密林と
あまり変わらない感じがする。
――あ、でもプレヴォは新大陸を実際に知っていたわけではないかもしれませんね?
そうすると新大陸の社会生活の描写は精度が低いかもしれませんね?
まるまる信じてしまうのは危ういかも。
ちなみに「マノン・レスコー」の一段階洗練されたものが「椿姫」だそうです。
ああ!なるほど!そういわれれば納得だわ!
というわけで、読んでいる間中はなんかしっくりしないと思いながら読んでいたのだけれど、
解説を読んだら俄然面白くなったという、けっこう珍しい作品でした。
読んだら解説もお忘れなくどうぞ。

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