内容自体は、ちょっと思っていたのと違った。
何しろサトウ日記抄だから、日記抄だと思ったのよ。
――訳の分からないことを言ってると思うだろうが、つまりは日記の解説だと思ったの。
だが、実際のところは独自の幕末研究。かなり細かい部分まで調べている。
そもそも最初から「え?」と思った。
まあ、サトウの末裔たちを訪ねるのは大いにあり得ることとして、
その親友の末裔までをイギリスの田舎(地方都市)まであちこち訪ねるまでする……。
旅行記の側面もある。ここまでするか。
そして根拠にした資料はサトウの日記だけではなく。というよりも、
むしろサトウの日記を引用する割合はすごく低い。少なくとも1巻の段階では。
――これ、全14巻ですからね。後半に従って日記の割合が増えることはあるかもしれないが、
多分これ、サトウの日記に基づく著作というよりは、より一層幕末研究としての作品。
たしかに焦点としてサトウを持ってきてはいるだろうが。
ただし作品としては大変良作な手触りを感じています。
元々は1976年から朝日新聞に連載されたものらしいんだよね。
文章は平易でわかりやすく、維新前夜という大変ややこしい時代を――
ヤヤコシイと思いながら読んだが――丁寧に書いている。詳しいが煩雑感はない。
文章も品があって温かみもある。好きだね、こういう文章。
だが、長いですよ。
朝日新聞連載91回分は伊達じゃない。これ多分ねー。1巻だけで91回分だと思うの。
新聞連載なら、1回分は大した分量じゃないでしょう?
……だとすると、14巻で連載1000回は超えますよね?いやー、やりすぎでは。
何しろ生麦事件とその後の経緯を1巻の後半丸々書いて、まだ終わってないですから!
内容はおそらく今後も大層良質で、読み続けては行きたいんだけど、
今回アーネスト・サトウについてすでに5、6冊読んでいて、
――若干幕末期に食傷しているのよね。
半年くらい前には渡辺崋山関連も読んだし。
なので、今後13冊続くこの作品を読み続ける自信がない……。
幕末期、特に諸外国との関係性については、読んでてうっすらツライじゃないですか。
だましだまされ。脅し脅され。計算と駆け引きと差別と偏見が錯綜する。
読んでて心が疲れるんです。
なので、第2巻はしばらく経ってから、多分半年後以降に再び読み始めようと思います。
1巻の内容をほぼ忘れるだろうから、そこは難ですが、ツラがりながら読みたくはない。
良書であるからこそ。
著者の萩原延壽は――こんな膨大な資料を調べて一体なんなんだ、と思った。
英国にも複数回行ってるし。
大学教授は大学教授だろうけど、こんな余裕のある書きぶり、地方の御曹司か何かか?と。
Wikiを見てみたら意外にも在野の歴史家なんだって。
旧制三高、東京大学大学院、ペンシルバニア大学、オックスフォード大学に学び、
各大学の招聘を断って在野の立場を選ぶ。
他にも著作はあるが、本作が代表作。結局新聞連載は2000回弱だったそうです。
だが新聞社がそこまでお金を出してくれたかどうか。
お金が潤沢にあったわけではないだろう。
どんな生活であったのか。執筆生活を支えた奥さんは家庭経済も支えたのだろうか。
本人は良書を残して悔いは少ないだろうが、周りの家族は大変だったはず。
いやー、すごい。奥さんがすごい。
では萩原せんせ、来年の春ごろまたお目にかかりましょう。
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