この話はなかなか面白かったんだ け ど 。
でもSFってやっぱりわたしには向かないな、と思った。この期に及んで。
大人の読書を星新一、新井元子、平井和正(と田辺聖子と永井路子の歴史もの)から
始めたわたしとしては、SFが苦手だと告白することは正直しのびない気がする。
だがたまに読んでも好みの合わなさを感じるのよねー。
特に海外SFがね。年に1、2冊がんばって読むんだけど、いつも読むと苦労する。
SFは究極の「設定厨」のジャンルだからなあ。
設定が8割。ストーリーが2割。キャラクターはほぼ0。というイメージがある。
わたしはストーリー7割、キャラクター2割、設定1割くらいのフィクションが好きかな。
ストーリーと設定は不可分ではあるけれども。
それに加えて、特に海外SFは新概念の単語の訳が致命的なんだろうなー。
今回の作品でいえば「仮定体」。原文の単語でいえばsubjunctive presenceとか
そんな感じ?知らんけど。
でも日本語で「仮定体」と読んでイメージできるものがないでしょう。
存在としては宇宙文明としての先行者、みたいな感じで始まるんだけど、
結局この存在がなんなのかというのが最終的なテーマ(の半分)だから、
重要なキーワードすぎるのよね。このキーワードが「仮定体」ではツライ。
日本語であまり恣意的に訳するのも違うんだろうし、結末にも大きく関わるし、難しいわ。
でもこの作品は、他のSFに比べて、ストーリーとキャラクターの部分に
なかなか力を割いていた。
なので面白かった。まあストーリーは全体的に苦難に耐えるもので、多分こういうところが
わたし好みじゃないところなんだろうけど。
もう少しユーモラスというか、可愛げがあるストーリー展開なものが好きだ。
数ある海外SFにはそういうものも当然あるんだろうけど、翻訳される作品は、
評価の定まったものが多くなるのは仕方ないし、評価が定まったものは壮大になりがち。
本作は大設定が秀逸。
ある夜、突然夜空から星が消えて、――それは宇宙のどこかの誰かが他の宇宙と地球を
隔てる「膜」を人工的に張ったから。そしてその「膜」の中と外は時間の流れが変わる。
この時間差がものすごく、地球での数年が地球以外での数億年に相当するすさまじさ。
ここから、2つの面白い展開があるわけですよ。
1.太陽があっという間に巨星化し、地球の滅亡が迫る。
2.それに対する対策として、火星を何とかテラフォーミングして、有機物の種を送る。
有機物は数億年をかけてあっという間に知的生命体に進化し、人間型の文明を築き、
(だがある時間が経ったところで火星も「膜」に覆われて、時間の流れは地球と揃う)
火星人の代表が一人、地球にやってくる。地球よりも高度な文明を築いたあとの。
太陽が膨張して地球が呑み込まれそうになって絶体絶命、というシチュエーションは
何百作品も書かれてきただろうが、そこに時間の流れを絡ませたアイディアが秀逸。
そこから火星との関係性もうまく物語を複雑にしている。
だが、言っちゃっていい?
結局エンディングはご都合主義にはなっていると思う。
文庫本350p×上下巻の話で、残り50pくらいまではサスペンスフルだが、
あとはゆるやかにエンディングに向かう。
これがきっちり収束するというよりは、まあ不満はないけど……的な結末。
なので、なるほど!という爽快感はない。
キャラクターもなかなか立っている。関係性もストーリー性がある。
でもみんな辛い思いをする人たちだから……結局そこがね。
楽しい、きれい、コミカル、という話が好きなわたしには合わない。
SFとしては面白かったけれども。
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