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☆< 国宝 >

いや、コレ。スゴイよ。びっくりしました。

こう来るかー。こう作るかー。うーん。そうかー。そうなのかー。
原作を読んだのが1年ちょっと前。まあかなり最近ですよ、わたしにとって。
なので比較的記憶には新しかった。細かい部分は忘れているけど。

そのあやふやな記憶からいうと、……けっこう原作をばっさりトリミングしていましたね。
小説はもっと人間ドラマの分量が多かったし、登場人物も多かったし。
まあ新聞小説で、ボリュームがありましたからねえ。これを映画にすると聞いた時は、
これをどうやって尺2時間にするんだろうと思いました。

そしたら……そうですか、3時間で来ましたか。3時間の邦画はきついかもなあ。
今日なんとなく寝不足だし。途中で寝てもまあいいか。
そう思って臨んだら、全然寝るどころではありませんでした!

ネタバレあります。
というかね。ネタバレとか、あんまり関係ない作品なんですよね。

とにかくね。歌舞伎シーンをたっぷり映す映画!
こんなに!?って思ったよ。序盤だけかと思ったら、序盤、中盤、終盤と歌舞伎漬け。
こんなに歌舞伎を映すなら、初めから歌舞伎俳優で撮った方がずーっと楽だろうと。

監督は一体何を考えてこう組み立てた?役者が何を考えてこの仕事を受けた?
真剣にこんな疑問を持つほど歌舞伎でした。
そして、まーこの歌舞伎部分がすごいのよ。
わたしも大して歌舞伎詳しくはないけどさあ……。でもここまで歌舞伎に仕上げて来たのは
すごい!すごすぎる!と言い切ってしまえるほどの出来上がり。
吉沢亮も横浜流星もすごい。一体どれだけ稽古したんだろう。
ていうか、稽古したからといってここまで出来るようになるって相当だよね。

踊りは横浜流星の方がエレガントな気がした。
多分本職は笑みを浮かべて舞うことはない気がするけど、笑顔を浮かべていたのが良かった。
その顔と雰囲気が合っていた。
白塗りだとぱっと見でどっちがどっちかわかりづらいから、特徴を与えてくれたのは有難い。

吉沢亮は、一体何種類の振りを覚えたんだ……。
まあとにかく感心した。正直言って呆れた。この前後に「バババ」をやりながら。
横浜流星も「べらぼう」やってますからねえ。すごいねえ。
曽根崎心中のお初も良かった。最後、人を変えて再度曽根崎心中も良かった。
しかし言うたらなんだが、渡辺謙にお初はさせたくないやろ。

渡辺謙、ここ1,2年、この期に及んで濃さに食傷してきた感じだったんだったが、
今回のこれは、設定にしては意外に軽めで良かった。再度いうけどお初は多分無理だが。

まー、さすがに万菊姉さん。この人絶対知ってる人!と思い、でも歌舞伎役者ではないなと
思い、だんだん思い出してきた。田中泯かあ。そうだったそうだった。
あれも化け物感がありましたね。いいスパイス。

高畑充希はちょっと貧乏くじひいたかもね。他がすごいから、普通の演技しても映えない。
この役柄は脚本的にも少し弱い。小説ではこの人のことも詳しく書くのよ。
多分10倍くらいしっかり書くから、もっとキャラクターが定着するし、愛着も沸くし、
御曹司への乗り換えももっと深いんだが、映画ではこの人に尺は割かなかった。
これはしょうがない。割かずに3時間だもの。

人物の人間関係はだいぶあっさりとしているよね。これは原作もわりとそう。
さすがに原作はもっと書いてるけど。
わたしが原作でけっこう好きだった徳次なんか、映画だけ見ていたら全然わかんないでしょう。
あれですよ、冒頭の波乱の新年会で、一緒に出し物をしていた男の子ですよ。
あの人は小説だとずーっと主人公に寄りそう、大事なキャラなんだけど、
ここもばっつり切りましたね。正解。

ほかにも正妻ももっと出て来るし、おかみさんはもっと内面も書かれるし、いろいろ……
ヤクザ業界の人もちらほら途切れずに出て来る。
人間のドラマの部分は映画の5倍くらいあったと思う。

だが映画はそこよりも歌舞伎を描くことを選んだ。

わたしは監督に訊いてみたいよ。
なぜこうしたのか。無謀ではないのか。歌舞伎素人である吉沢亮と横浜流星の起用に
不安はなかったのか。若手歌舞伎役者を使うという選択肢はなかったのか。
原作を映画にすると聞いた時にはもっとありきたりの映画になると思っていた。
普通に作ればそうなったと思う。

しかしこれほどに歌舞伎シーンを多用する。
しかもただの歌舞伎じゃなくて、アップの多用とか、ただごとではなかったですよね。
むしろ歌舞伎のルポに近い。それもルポでは不可能な、超至近距離からの映像、
役者からの視点も映してくれて、これは多分もう二度と見られないアングルだと感じた。
いや、フィクションの価値ですねえ。

白塗りのアップはどんな美形でもなかなか難しいと思うのよ。素直に美しいと思えない。
少しキッチュなグロさがある。
しかし吉沢亮にしても横浜流星にしてもすごみがありましたね。見入ってしまった。
よくこんな風に撮った。すごいアイディアだね。

話に、ものすごい無理を感じるところはある。
さすがにあんな彫物をして歌舞伎役者は駄目だろう……。
隠せないものねえ、早変わりの時とか。
そして、彫る時ももっと時間かかると思うよね。1年以上かけて彫るサイズの図柄かと思う。
あと、中学生?高校生?の体に彫ると、大人になってから微妙に図柄が崩れるだろう。
そもそも彫れないと思う。
うーん、彫物は入れない方が良かったんじゃないかなあ。

高畑充希と横浜流星の関係性も、かなり力技ではあるのよね。
他にも、映画だけでこの話を見る人にはちょっと無理があるのではと思ったところは
まあまああった。

寺島しのぶもはまり役ですねえ。そもそも踊りの下教えをするのが奥さんって
そこまで一般的じゃない気がするけど、説得力がすごかった。
そりゃ実の息子で、そんなに出来も悪くないならあの態度は実にもっとも。
むしろあのくらいの当たりの強さ(というか弱さ)なら、よく出来た人だよ。
寺島しのぶは若い頃はいま一つ好きじゃなかったけど、
最近の年齢感での役柄が良くなってきましたねえ。

あ、そう!あとね、綾乃(大人バージョン)が。
これ、この締めにこれだけでこんな風に出て来て、納得させるのは超難しいですよ……!
そう思って役者を確認したら、そうか、瀧内公美か!
わたしはつい最近発見した女優さんで、注目し始めたばかりだからうれしい。
瀧内公美は目が印象的な人だが、ほぼ真横から撮って、目力をあまり映さなかった。
それも上手いね。ここであんまり迫力があるとそれはそれでバランスが崩れる気がする。

まあ感想は支離滅裂で、他にもいろいろありますけれども、とにかくすごい映画でした。
満足。歌舞伎が嫌いという人以外は見に行って損はないと思う。
……ま、ストーリーを見る映画かっていうと違うから、
話を細部までかっちり把握したい人はちょっとツライかもしれないが。

いい映画だった。力強く、芸と生き方を描いた。

実はわたしが見た回は機材トラブルで、音声がブツブツ途切れてました。
最初は演出?と思ったりしたが、それにしてはかなりあったので、これはまずいねえと思った。
だが、ストーリーを見る映画じゃないから、台詞の一部が途切れても個人的には
そこまでは気にならず。見ている間は機材トラブルという可能性は頭にまったくなかった。

そしたら映画が終わったあと、映画館の人が何人か神妙な顔をして出て来て。
「機材トラブルで大変ご迷惑をおかけしました。お詫びにドリンク券をお配りします。」
へー、珍し~。と思った。券を一人ひとり渡していくんだけど、その時のお詫びが
大げさなのでは?と一瞬思うくらい心から謝っていた。
3人が心から一生懸命謝っているので気の毒になったくらいだよ。
でもこういう時、ちゃんと謝らないと客の気がおさまらないからね。
何事も真摯に対応するのは最上手。正しかったよ。

いただいたドリンクチケットは来月、多分また映画を見に行くと思うので
ありがたく使わせてもらいます。7月初めから始まる「海がきこえる」はどうしようか。
見たことないのよ。氷室冴子はなつかしい。遅れに遅れた香典替わりに見てみるか。

9月にバカリズム脚本のベートーヴェンの映画やるそうで、
これは見に行かんとあかん。

東京MERは映画館へ見に行くまでは……だが、他に全然なかったら行くかな?
最近ちょこちょこ見たい映画が出て来たかな。
一昨年くらいまではほんとに見たい映画がなかった。まあこれはコロナの影響だろう。
ようやく通常業務がこなせるようになってきて、温めていた企画がどんどん
出てきてるんじゃない?

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