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◇ 片桐はいり「わたしのマトカ」

現在最も書いて欲しいエッセイの書き手が片桐はいりである。
だが旅に出にくい状況だし、その願いはかなわなかろう。

これは「かもめ食堂」の時のロケで、1ヶ月強フィンランドに滞在した時の滞在記。
マトカはフィンランド語で「旅」とのこと。
マトリョーシカの略かと推量していたのは内緒だ。

面白いんですよねえ。
出来事も面白い。文章も面白い。考え方も面白い。
とりわけ、今回はロケの仕事なのでロケ現場のあれこれも知ることが出来て面白い。

出来ればもうちょっと小林聡美とかもたいまさこの話もして欲しかったけど、
書き手が、そこはエンリョしたんだと思われる。
書かれることが基本的に迷惑という世界の人として。

面白かったエピソード。
共演したマルック・ペルトラという俳優がいて、片桐はいりは
彼が出演したかなり多数の映画のパンフレット、DVDを持参したらしい。
サイン下さい!といって彼の作品について通訳を介していろいろ話をしている時に、見た感じは全く冷静なのに、通訳の人が、
「そうは見えないでしょうけど、この人、今、すごく舞い上がっています」
通訳の合間にこっそり告げてくれたこと。
フィンランドの人は感情表出が控えめらしい。

――そのマルック・ペルトラは2007年に亡くなっている。
ロケから2年後。まだ51歳だった。

20章内外のエッセイで、多方面からの切り口が楽しい。
食あり、フィンランド人あり、フィンランド俳優あり、町のたたずまいあり。
ロケの仕事が終わったあと、プライベートで泊まったファームステイの
臨場感といったら……!
もし自分がこんな状況になったらどうしよう!と思いましたよ。
結果的に喉元すぎればになるかもしれないが、わが身に起こったらと想像すると
こわいー。うぞうぞする。

片桐はいりにはもっともっと書いて欲しいんですよねえ……。
俳優としても好きですが、文筆家としての活動を待ち望む。

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