まあこういうのもあっていいかな、わたしは嫌いだけど、と思いつつ読んでいた。
422ページの作品の、だいたい350ページまでは。
しかし最終盤を読んで呆れたね。
もともと久々にガチガチの本格推理を読むつもりで読み始めたんだよなー。
副題に「デュパン第四の事件」と麗々しく書いてあればそう期待するでしょう。
そしたら、冒頭から延々と19世紀半ばのパリ風俗が続く……
いや、嫌いじゃないですよ。その頃のパリ風俗についての話は。
でもミステリを読もうとしてさっぱりミステリが始まらない小説は。
お預けをくわされた犬のような気分だった。
歴史小説に近い時代小説だけど、わたしは有名人を便利に使っていると感じた。
便利に使っていても面白ければ印象は悪くならないのだが、
結局面白くなかったので欠点に見えてしまう。
時代小説。
風俗小説。
歴史小説。
主張小説。
そしてミステリ。
全てを兼ね備えた素晴らしい小説、と評価する向きもあるだろうが、
それぞれから都合よくいいとこどりして、鵺を作り上げたと感じた。
わたしが期待したミステリは――
全体の中の1割くらいだろうか。もう少しあるか。
しかしデュパンが出て来ていても謎解きをするわけでもなく、
パリ、及び時代について長々と語るだけのシーンが多く。
歴史の見方をダイレクトに小説で演説するのは、わたしは総じて分量的に
ほどほどにした方がいいと思っていて、本作はむしろこれが主なので
やれやれと思った。
こういうテーマを読むなら鹿島茂でもっとすっきりと読みたいよ。
それでもまあまあ魅力的な事件は起こるし、この謎解きはどう納まりをつけるのか、
それなりに興味を持って読み進めたが、――デュパンとあの人の対決も
ストーリー的な旨味はほぼなし。
極めて盛り上がりに欠ける。
それぞれのトリックも、
浴室密室のトリックは小粒ながらもまあ好かろうと思うが、
空中毒液のトリック、ドッペルケンガーのトリックは
は?と思うバカミスぶり。
こういう無理があるトリックは、ガチガチの本格という箱庭でこそ
(うまく書ければ)活きることもあるというものであって、
「歴史小説的に書きたい時代小説」の中に置いたところで、「いやナイよね」で終わり。
しかも最後の50ページくらいで早口で種明かしをするだけでは話としてノレない。
文章がごつごつしていて、いい気持にならない。
こういう雰囲気の話なら、佐藤亜紀あたりが書けばけっこう面白くなったかも。
長い話だったので、それを読まされて最後があれかい、と落胆したことも含めて、
笠井潔はこの1作でいいわ。この後矢吹駆シリーズを読んで行こうと思ってたが。
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