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◇ 川上康介「五感で学べ ある農業学校の過酷で濃密な365日」

これ、タイトルで損してる本だと思うなー。
内容を表してることは表してると思うんだけど、インパクトがない。
第三章のタイトルの「タキイ三倍速の法則」がタイトルで良かったんじゃないか。

タキイって、わたしが聞いたことがあるくらいだから、多分有名な種苗会社ですよね。
そこが主催している農業学校の話。タキイ研究農場付属 園芸専門学校。
農業高校ではない。18歳から24歳の男子限定の全寮制学校。
農業高校から入学する人もいるし、京都大学を卒業してから入学する人もいる。
1年学ぶ人を本科生というが、本科生だけで卒業する人もいるし、
そこから2年目の専攻生に進む人もいる。
が、本科生としての成績が優秀じゃなければ専攻生には進めない。
授業料・寮費・食費すべてひっくるめて全部無料。

そしてこの学校が超~~~~厳しいらしい。
本の情報は2009年なので、現在では違うものもあるかもしれないが、
いろいろあるルールのなかで厳しいと思ったのは、
テレビ私有禁止、寮内での飲酒禁止、在学中は自動車、バイクの運転禁止。
部屋の整理整頓も成績に加算され、抜き打ちで検査が行われることもあるとか。

実習がほんとにきついらしい。移動は常に駆け足。夏の炎天下での整地。
機械で行えば行えるところ、あえて人力で行なう過程もあって、
こないだ熱中症で倒れたわたしは、その療養中に読んだこの本で、
炎天下の農作業実習の章を読んで、再度倒れそうになりました。恐ろしい。

著者は40歳前後でこの実習に参加したそうだが、マジで倒れる寸前だったらしい。
滋賀の山の中のただっぴろい畑。直射日光バリバリで、そこで荒地を鍬で耕す。
しかも一日中。……恐ろしい。

とかなんとか、こういう厳しいカリキュラムをこなし、
規律正しい(軍隊的な)寮生活を通じて、全体に目配りをする性質が身につき、
1年ないし2年の後には大変しっかりした人間になっていく
(といういいかたは安易だけれども)、
そのレポートとして、この本はすごく面白かった。

ほんと人間いろいろです。農家の後継ぎとかの人はたしかに多いんだけど、
全然農業と関係ない環境の人もいるし、農業関係への就職を最終目標において
入学してくる人もいる。
専攻生を終了すると、どこに出しても恥ずかしくない人間が出来上がるそうですよ。
出来上がるなんて言い方は語弊があるが、体力的にも精神的にも弛んだところのない
生活を通じて、ちゃんとした人間に鍛え上げられる。
能動的で、自分の意見をちゃんと述べられる、目配りの上手な人に。

タキイは農業の将来を見据えてこの学校を作ったらしい。
2009年時点とはまた違った部分もあるかもしれないけど、
現在も動き続けています。こういう実体のある会社はいいなあ。憧れを持つ。

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