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◇ 蜂谷涼「へび女房」

考えてみれば「新十郎探偵帳」とほぼ同時代の話でした。共時性。

初蜂谷涼。タイトルから、もっと時代物でほのぼのした話かなあと思っていたが、
かなり歴史物寄りの時代もの。
面白かったが、どの程度フィクションなのかよくわからないから不安になる。

時代物はかなり自由に書けるじゃないですか。
考証も(わたしは期待したいけど)歴史物よりは全然ゆるい。
通常の時代物だと彩りとして実在の人物をちょっと借りて来るという感じですよね。
でもこの人はほんとに書きたいのは歴史上の人物の裏面史の方で、
それを歴史物として描くと行き場がなくなっちゃうから時代物として
書いているという気がする。

ただ裏面史の場合、あんまり適当なことを書かれちゃうと読み手としては困る。
読んだことは頭の片隅に残りますからね。それが正確であろうとなかろうと。

この本では、森有礼の奥さん・常子が金髪の子どもを産んだことになっていて、
いやー、そんな奇天烈な話があるわけ……と思って調べたら、
そういう風評があったのは事実のようですね。

常子も(のちに森有礼と離婚して)けっこう波乱万丈の人生だったようだし、
まるっきりのでたらめは書いてないんだなと思った。
真実かどうかはわからないけれども。

じゃあ黒田清隆が酒乱だったのはどうなのかというと、こっちも酒乱だったそうですね。
基本的に信じて読んでいいみたい。誠実な書き手と感じる。

……が、話の全体としてわたしの好きな話かというと。
読む前はほのぼの系を期待していたが、この連作短編は、明治維新の後に
困窮した旗本や没落士族の子弟がどれだけ苦労していったか、という話なわけですよ。
最終的にはどれもほの明るい、ハッピーエンドの範疇に入る終わり方をするのだが、
苦労の部分を読むのはちょっとヤだった。

こういう苦労はどの作品でもそうなんだろうなー、と推量するので、
1作でやめようかと思ったのだが、その誠実な書きぶりに敬意を表して
あと2冊くらい読んでみようと思う。
あんまりタイトルは惹かれないんだよなあ……。

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