面白かった。
出島の小説を読んだの初めてかなあ。「風雲児たち」で出て来た名前が
ちょこちょこあってなつかしかった。
川原慶賀を視点人物にしながら、歴代の出島館長やシーボルト、その周りの
人々を描いている。わかりやすくて、あっさりしていていいね。
絵師の話というには、絵の部分だいぶあっさりだったが。
そうか。「商人(あきんど)」だったね、ねじめ正一は。
この小説のミソは北斎の娘、阿栄じゃないだろうか。
史実ではないはずだが、慶賀と阿栄は恋仲になり、長崎で暮らす。
そう持って来たのが意外。力業でしたね。
シーボルトもおたきも阿栄も、登場人物は魅力的に描かれていたと思う。
が、いえばこの人の小説はあっさりしすぎていて、どうも小説っぽさが少ない。
エピソードの積み重ねで――全ての小説はエピソードの積み重ねであることを思えば
そういう言い方も変だが、その積み重ねたところから始まる何かが足りない。
コクというか。旨味というか。
まあコクや旨味じゃなくて、あっさりさを楽しむ作品ってことでいいんですが。
ちなみに、「室津に木曽義仲の夫人であった友君という女が流れてきて、
それが遊女の始まり」という部分があるのだが、はて?と思う。
少なくとも源氏物語には江口の遊女が出て来ていたはずだが……。
世界最古の職業と言われる遊女が、日本でまさか平安時代最終盤に成立したわけが
なかろうと思う。ここらへんはどういった意味で「始まり」なんでしょうね?
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